77・初夜
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さて、話は初夜に戻る。
ラウルは寝所で初めて迎える夜、微妙な緊張感を抱いていた。ベッドの柔らかな感触に体を沈めながら、彼はミカを見つめていた。彼女は傍に座り、ゆったりとした動きで彼の方に向き直った。その顔には、いつもの堂々たる魔王の表情とは異なる、どこか優しげな微笑みが浮かんでいた。ラウルは一瞬の迷いを胸に抱きながら問いかけた。
「いままで、何人と寝てきた?」
ミカはその質問に対して、少し意地悪そうに笑みを浮かべた。彼女の唇は柔らかく曲がり、目元にはいたずらっぽい光が宿っている。「気になるのか?」と、艶やかな声で返す。
「ちょっと…」ラウルは正直に答えた。その声には、隠しきれない興味と僅かな嫉妬が含まれていた。
ミカは肩をすくめるようにして、何のためらいもなく言葉を続けた。「ラウルも入れて二人じゃ」
ラウルは驚いたように目を見開いた。彼の表情には、驚きと戸惑いが混じり合っていた。「一人目はラウルス様?」
「そうじゃ」ミカはあっさりと頷いた。その動作には、全く重さを感じさせない。まるで何でもない話をしているかのような軽さだった。
「何万年も生きて二人だけ?」ラウルはまじまじと彼女を見つめた。その目には驚愕と疑念が浮かんでいる。魔王として永い時を生きてきたミカにとって、この数はあまりに少ないように思えたのだ。
ミカは優雅に頷き、ラウルの疑問に答えた。「そうじゃ」
ラウルは少し考え込んだ。そして、ふと気になって口を開いた。「あ、魔族としたことは?」
ミカは微笑んで、ラウルの顔をじっと見つめた。その微笑みにはどこか神秘的なものが感じられた。「魔族は妾の子供たちじゃ。そんなわけ無かろう」と、まるで冗談でも言っているかのようにあっさりとした口調だ。その声には、母としての絶対的な威厳と深い愛情が滲んでいた。
ラウルはその言葉を噛み締めたが、次に感じたのは驚きだった。ミカの技巧に、経験がたった二人だけだとは到底思えない動きがあった。彼女の指先が彼の肌を撫でる度に、ラウルは自分が完全に彼女の手の内にあることを実感していた。
「なんでこんなテクニックを…」と、つい口をついたラウル。彼の声は息を呑んだように震えていた。その問いには、本当に驚いているという感情が込められていた。
ミカはいたずらっぽく笑って答えた。「妾は魔王ぞ。相手の心も読める。何に興奮するか知ることもできるのじゃ。ラウルの好みに合わせてやっておる」
その言葉に、ラウルは何とも言えない感情が胸に広がるのを感じた。それは、彼女のすべてを知りたいという欲求と、彼女が持つ絶対的な力への畏敬の入り混じったものだった。彼女の目は深く、まるで全てを見透かすかのように彼を見つめていた。
ミカはラウルの体を優しく引き寄せ、その胸に顔を埋めた。彼女の息遣いが耳元にかかる度、ラウルの心拍は速まった。彼女の手がラウルの背中を撫で、その指先が彼の肌を追いながら、まるで彼を安心させるかのように触れてくる。その触れ方には、経験豊富な愛情と、彼女が本当にラウルを大切に思っていることが込められていた。
その夜、二人は静かに、しかし情熱的に愛し合った。ラウルはミカに対して心を開き、彼女もまた彼にすべてを預けた。彼らは互いに求め合い、そして何度も一つになった。ミカはその度にラウルの名前を優しく呼び、その声は彼にとって何よりも甘美な響きだった。ラウルは、彼女の柔らかな髪を撫で、彼女の体をしっかりと抱き寄せた。彼女の温もりが彼を包み込み、その存在が彼にとってどれほど大切なものかを実感した。
やがて、夜が深まり、五回目の頂点を迎えた後、二人は静かに体を寄せ合った。ラウルは疲れながらも満足げに息をつき、ミカは彼の肩に顔を預けて微笑んだ。彼女の唇がラウルの頬にそっと触れ、その瞬間、二人の間に静かな幸福感が広がった。
ミカはラウルの髪を撫でながら、小さな声で囁いた。「妾は、そなたを心から愛しておる」
ラウルはミカの言葉を受け止め、彼女をしっかりと抱き寄せた。「僕もだ、ミカ。どこまでも、何度でも、君を愛しているよ」
その瞬間、彼らの間にはもう何の壁もなかった。人族と魔族という違いさえも、ただ二人の愛の前には消え去っていた。外の世界のすべてが遠く感じられ、ただ二人だけの静かな夜が続いていった。ラウルはその温かさに包まれながら、これからもミカと共に生きていくことを強く心に誓った。彼女との未来が、どれほど素晴らしいものになるか、ラウルにはすでにその光景がはっきりと見えていた。




