75・ネミラ
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ミカの言葉にラウルは一瞬目を丸くしたが、その後、穏やかな笑みを浮かべた。
「何人か……? それは、今後の生活次第でしょうね。でも、子供を持つことは楽しみにしています。あなたとなら、どんな未来でも乗り越えられる」
ミカは満足そうに頷き、ラウルの手を握った。
「妾もそうじゃ。そなたと共に育てていける未来が楽しみでならぬ」
二人の会話を遠くから見守っていたネミラが顔を赤らめながら近づいてきた。その瞳にはどこか温かな感情が宿っている。「あの……ミカ様、そろそろ次の会議の時間です」
ミカは少しため息をつきながらラウルに別れを告げた。
「また夜に話そう。妾はちょっと魔界の事務を片付けねばならんのじゃ」
彼女の声には、ほんの少しの名残惜しさが感じられた。
ラウルは軽く笑って頷いた。
「分かりました、ミカ。でも、僕も共にこの道を歩んでいきます。あなたとなら、迷いは少しずつ消えていく気がします」
彼の瞳には新たな決意と、優しさが込められていた。
ネミラに案内されながら、ミカはふと考えた。自分たちの結婚により、魔界と人族の間の絆がさらに強くなったことは確かだが、それでも未来に待ち受ける試練は決して少なくない。フェリスの動向はまだ掴めておらず、東の大陸との関係も完全に安定したわけではない。その考えが彼女の心に一抹の不安をもたらしていた。
大殿堂の廊下にミカの足音が響き渡る中、ネミラが小声で言った。「ミカ様、少しお疲れのように見えます……」その声には、静かな思いやりが感じられた。
ミカは軽く微笑み、首を振った。
「心配はいらぬ。そなたの献身には感謝しておるぞ、ネミラ。ただ……未来のために、妾もそなたたちにもっと多くを教えなければならぬと思っておる」
ミカの声は力強く、それでいて優しさが滲んでいた。
ネミラは真剣な顔で頷いた。
「私たちはミカ様のためなら、どんなことでもいたします。ラウル様も、我々全員が支えていくつもりですから」
その言葉に、ミカへの強い忠誠と決意が込められていた。
ミカはその言葉に励まされ、大殿堂の会議室に向かって歩みを進めた。彼女の背筋はまっすぐで、その足取りには決して揺るがない意志が込められていた。魔界と人族の未来を切り開くために、彼女はこれからも歩み続けるのだと心に誓っていた。
会議室の扉が目の前に現れたとき、ミカは一瞬だけ振り返り、ネミラに微笑みかけた。
「ありがとう、ネミラ。そなたたちがいる限り、妾は負けぬ」
ネミラは深く頭を下げた。
「ミカ様、いつでもお傍におります」
ミカはその言葉に軽く頷き、会議室の中に入った。中にはすでに集まっていた閣僚たちが彼女を待っていた。
「さて、皆の者、今日の議題に取り掛かるとしようか」
彼女の声には自信があり、どこか晴れやかな雰囲気さえ漂っていた。これからの試練は確かに容易ではないが、仲間と共に未来を築くため、ミカは歩みを止めることなく進む決意を新たにした。




