74・秘技
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ラウルは魔王ミカとの日々の訓練を経て、確実に成長していた。しかし、彼の中にはまだどこか迷いがあった。ミカから授けられた「戦意喪失の秘技」を完全に使いこなすには、精神的な覚悟が足りないと感じていたのだ。
ある日、ミカはラウルを呼び出し、ふと彼に問いかけた。
「ラウルよ、そなたの心はどこにある?」
ラウルは一瞬戸惑いながらも答えた。
「ミカ、私はあなたへの愛を誓い、勇者の技を受け継ぐためにここにいます」
ミカはその答えに微笑んだが、その目は優しく、まるで彼の心の奥底を見透かしているかのようだった。
「それは表面の言葉じゃ。そなたの心の中、まだ何か揺れておるな」
ラウルは息を飲んだ。ミカの言う通りだった。彼の心の中にはまだ人族としてのアイデンティティと、魔王ミカの夫しての新しい役割との間に葛藤が残っていた。
「ラウル、今日から新たな試練を与えよう。これまで教えてきた技は、ただ力を振るうだけではなく、心の持ちようがすべてじゃ。心が定まらぬ者には、この技は不完全なまま終わる」
ミカの言葉は、彼にとって鋭い刺のように感じられた。それでもラウルは、覚悟を決め、師の指示に従うことにした。
その夜、ミカはラウルを魔王城の最深部へと連れて行った。そこには封印された古代の魔物が眠っていると言われており、かつての勇者ラウルスもこの場所で試練を受けたという。古代の魔物は魔王ミカが創造したがあまりにも強すぎて手に余った魔物だ。
「ここで試練を受けよ。この封印を解き、古代の魔物と向き合うことができれば、そなたの心の迷いも消えるだろう」
ラウルは深呼吸をして、封印の前に立った。彼の中で、勇者としての血が騒ぐのを感じた。そして剣を握りしめ、封印をゆっくりと解いた。地鳴りと共に、巨大な黒い影が姿を現した。
「おお…ラウルスの血筋か。だが貴様にあの勇者と同じ力があるのか?」
魔物の声は低く、威圧的だったが、ラウルは一歩も引かなかった。ミカの教えを胸に、ラウルは冷静に魔物の動きを見極めた。相手の息遣い、動きのリズムに集中し、心を研ぎ澄ます。
そして、ミカから教わった「呼吸を合わせる」技を試みる瞬間が訪れた。魔物が突進してきたその瞬間、ラウルは自分の呼吸を相手に合わせ、鋭く剣を振り下ろした。次の瞬間、魔物は一瞬の隙を突かれ、動きを止めた。戦意を完全に奪われ、もはや攻撃する気力を失ったのだ。
ミカは遠くからその様子を見守り、満足そうに微笑んだ。
「よくやった、ラウルよ。そなたの心が定まったな。これで勇者としての資質は揃った」
ラウルは静かに頷いた。自分の中で何かが変わったのを感じていた。それは、ただ技を習得したというだけではなく、彼自身の心の迷いが消え、真の強さを得た瞬間だった。
「これからが本当の戦いじゃぞ、ラウル。そなたはまだ始まったばかりじゃ」
ミカの言葉に、ラウルは力強く答えた。
「我妻よ、これからも共に進みましょう」
ミカはキスをしてほんわかと言った。
「で、子供はもう作って良いか? 何人欲しい?」




