73・希望と暗躍
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懇談会が一段落し、魔王ミカがゆったりとした足取りで集まった難民たちに近づいてきた。彼女の周囲には自然と静けさが広がり、すべての目が彼女に向けられる。
「皆の者、よく来たな。そなたたちをこの魔界に迎えられること、妾は大変嬉しく思っておる。ここでは平和が保証され、自由に生きることができる。だが、それぞれの傷もまた癒す時間が必要であろう。そなたたちにその時間を与えたいと妾は思う」
ミカの言葉には、静かな力が込められていた。和平派として冷遇され、家族を失った者たちが、再び新しい生活を始められる希望を感じた瞬間だった。
ラウルは、師匠のテカと目を合わせ、軽く頷いた。魔王ミカがここまで温かく彼らを受け入れてくれることに感謝し、彼女に向かって一歩踏み出した。
「ミカ様、この場をお借りして…皆さんに紹介したいと思います。彼女はただの魔王ではありません。人族を、そして和平を尊ぶ心を持つ存在です。私のような者を救い、新しい道を示してくださった。そして、皆さんにもきっと同じように新たな未来を与えてくださるでしょう」
彼の言葉に、難民たちの間から感嘆の声が漏れた。特にムコイとザイは目を輝かせ、ラウルに感謝の眼差しを向けていた。
「ありがとう、ラウル」と、魔王ミカは静かに微笑んだ。「皆、ここではそなたたち自身が決めるべきだ。過去にとらわれず、これからの生をどう生きるかを、妾はそなたたちの選択を尊重する」
懇談会が続く中、ラウルは一歩後ろに下がり、その場の和やかさを感じながら師匠や仲間たちと会話を続けた。
その夜、ラウルは久しぶりに深く安らかな眠りについた。過去の悔いと苦しみはまだ完全には消えていなかったが、新たな絆と未来に向けた希望が、彼の心を支えていた。
さて、現在の状況を纏めると、魔界と東の大陸は同盟を結び、帝国は東の大陸に制圧された。蝙蝠のごとく帝国と東の大陸の間を飛び交っていた魔王フェリスは行方不明である。
東の大陸に新技術をもたらしたフェリスは魔王ミカより危険人物として東の大陸に通告されている。
なにより、その保身の事しか考えてない節操のなさが両国首脳から疎まれてしまった。
――あやつに国の行方を任せるわけにはいかん。
それが東の大陸の意思となった。
さて、魔王フェリスはどこに居たかというと……
東の大陸の暗黒街に身を寄せていた。確かにその身に与えられた能力は便利である。魔王フェリスはいつの間にか「暗黒卿」と呼ばれ国の裏を仕切るボスの側近となっていた。
正直、どこ行ってもナンバーワンには成れないのが彼の小物具合を示していた。そのことに魔王フェリスは内心鬱屈していた。元々の度量があまりないので仕方ない。力があると言うことと、人が付いてくるということは根本的に違うのだ。フェリスには人徳がない。それは自明のことだった。
しかし、そうであってもテロリストが一人であっても危険であるように、魔王フェリスは危険人物であった。
魔王ミカは東の大陸と同盟を結ぶ時に、取引条件として魔王フェリスの引き渡しを強く入れた。
――あやつはもしかすると不死かもしれぬ。
そうであったら、この先、油断した瞬間、魔王ミカはともかく、ラウルや魔族たちが殺されるかもしれない。そんなリスクは早めに排除したい。
見つけ次第排除する。殺せる者なら殺す。
ただ、魔王フェリスは表に出なくなっていた。気配は魔王ミカとて知ることはできない。
やっかいな相手だった。




