72・ラウルの思い
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魔王ミカとラウルの下にフェリスが勇者から魔王になったとの連絡が入った。ただ、魔王ミカのように仲間を作れないことを知ったラウルは、
――孤独な魔王か……
と同情を感じた。ラウルはフェリスを哀れみ、救いたいと思った。騎士としては戦いに滾るものがあるがいつまでも続けられるものでは無い。平穏な生活が素晴らしいことがフェリスにも分かって欲しいと思ったのだ。
ラウルも家族は帝国から逃れたとは言え付き合いのあった人々から切り離された生活を送っている。気持ち的にちょっと物足りない。
「妾がおるではないか」と魔王ミカが言ったがそれはそれでちょっと寂しいのである。
その帝国も滅亡してしまい、友人たちは今何をしているのか? とちょっと落ち込む。
鍛錬に打ち込むことで陰を振り払う。
そんな彼を見て、魔王ミカは言った。
「帝国の住民の中から魔界に亡命してきた者がいるぞ。和平派だった連中じゃ。そなたの知り合いもおるようじゃ」
「本当ですか。居場所を与えて頂けませんか」
「もちろんじゃ、丁重に扱う。そなたの知り合いというだけでなく、妾は人族が好きじゃからな。時々、呆れた振る舞いをするが、まあいつも許しておる」
魔王ミカは母性を持つ存在である。
数日後、難民が魔王城に集まり懇談会が開かれた。ラウルは、剣の師匠の姿を見つけ嬉しくなって声を掛けた。
「テカ様、お元気そうでなによりです」
「おう、ラウルか。魔王の婿になったという話は本当だったのだな。儂だけでは無いぞ、ムコイもザイもおる。皆、和平派で冷や飯食わされていた連中じゃ」
ムコイとザイは駆け寄ってきて肩を抱いた。
「良かったなぁ。どうなることかと思ったぞ」
「魔界はどうだ? 蛮族だと思っていたが、思いのほかレベル高いな」
口々に言う。ま、仕方ない。自分も魔界は未開の地だと思い込んでいたのだ。
「ああ、実は正反対だったんだ。先進地だよ、ここは。学ぶべきものは多い」
ラウルは噛みしめるように言った。あのとき、大使の従者として来てなかったら動乱で家族はどうなっていたことか?
「そういえば、ザイのご両親は?」
ムコイは残念そうに首を振った。
「死んだよ。処刑された。ザイの両親は和平派の急先鋒だったからな」
ラウルはどんな顔をすれば良いのか見当が付かず俯いた。ザイは、不幸を振り切るように笑顔で、
「みんなとこうして話せるだけで嬉しいよ!」
と言った。
「すまない」とポツリと言ったラウルに向かって、
「お前がやったことじゃないだろ。主戦派の王子たちが悪かったんだ」
と、言って、ラウルは涙目になった。全権大使として帝国に行ったときにもう少しなんとかできればと思ったのだ。だが、ラウルを人質に取られるのを危惧した魔王ミカに止められたのであった。
テカがその様子を見て助け船を出した。
「魔王様に挨拶させてくれ。これから、ここに住むんだからな。いい人なんだろう?」
その言葉にラウルは微笑んで応えた。
「もちろん!」