7・東の大陸
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会談が終わった後、魔王は諜報部隊のレムスを呼んだ。千年前は脳筋で戦って情報収集もせずに負けてしまったが、その反省から諜報部隊を新設し、王都に送り込んでいる。
「レムス、王国の状況はどうじゃ?」
「はっ。主な問題は東大陸の侵攻ですが、背景に両大陸の寒冷化で作物が減って飢える者が増えているという状況があります。魔族は魔力を食べるのでたいした影響はないのですが、王国と東大陸は困った状況でしょう」
「そうじゃな。食料援助とかできんしのう。魔力は魔石から吸収するから天候とは関係ないし」
「はい、王国が我が国を攻める理由などないです。むしろ、協力して背後に憂いをなくした方がいいでしょう」
「東大陸の方はどうじゃ?」
「入ってくる情報によれば科学技術が進んだ国です。ただ、急激に豊かになったので資源が枯渇しているようです。そこで、王国に侵攻して食料や鉱物を奪取しようとしているとのこと。軍事力はかなりの物です。ただ、魔石がまったく産出しないので、魔力に乏しく、我らに取ってはたいした魅力がある地域ではありません」
魔力無きが故に科学技術が発達したか。
でも! 退屈していた魔王は久しぶりに面白げなことが起こりつつあるのを見て、ワクワクするのを感じた。勇者の子孫が現れたし、この先100年くらいは楽しめそうだ。
「テルゴウス、皆に鍛えておけと命令しておけ」
自分もあの騎士を鍛えつつ、鈍った身体に活を入れようと思う。まあ、ここ千年だらけた生活ばかり送っていた自分をちょっと反省する。
魔王城の窓から、帰国する大使一行を眺めながら魔王は息を吐いた。
すると、馬上の騎士が振り返りこちらを見上げ手を上げた。
――初奴じゃ。
今は亡き勇者のことを思い出して、胸が熱くなった。
そんな魔王の姿を見て、テルゴウスもレムスも諦めの境地に達していた。魔王は部下に慕われていた。恋されているとも言っても良い。魔王のためなら死んでも良いと思ってる者達だ。それなのに、当の魔王は勇者のみを恋慕している。
力が全ての魔界で、魔王を圧倒したのは勇者のみだから仕方ないとは言え、多少は嫉妬心が生まれるのは仕方ない。
――自分を信頼して仕事を任せてくれる。それで良いではないか。
テルゴウスもレムスもそう思って自分を納得させた。
新しい登場人物が揃い始め、時代は変わろうとしていた。