69・裏切りの連鎖
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フェリスは鬱屈していた。見捨てた騎士たちが王子や宰相になにか吹き込んだらしく、叱責されてしまった。その場で王子を殺してしまおうかと思ったが、暗愚では無かったフェリスは唇を噛みしめて引き下がるだけであった。
――まあ、俺を処罰できようもないがな。
そうは思ったが、自尊心を酷く痛めつけられた。
――それにしても魔王の奴め……
女の癖にいつか痛めつけてやると思った。圧倒的力が与えられたのにもかかわらず、魔王の正体が分かっていないのである。
おそらくはもう王子に取り入ることはできないだろう。ならば東の大陸に協力しよう。
敵ばかり作るフェリスの性格が良い感じに煮えてきた。
東の大陸も対処に困っていた。魔王が出てくると皆戦意を失ってしまうのである。ただでさえ魔王軍に弱点が見えないのに、神出鬼没の魔王が出てきたらどうしようもない。
頼りにしていたフェリスももう一歩役に立たない。
東の大陸は反戦の灯火が広がり始めた。レムスの仕業でもある。反戦歌が流行し、魔界と同盟すべしという意見が散見されるようになった。
結局、双方ともに損害が少ない内にと、秘密裏に和平交渉団が向かったのである。
そんなときに、東の大陸にフェリスが逃れてきた。王国から迫害を受けていると称して。
一応フェリスは半自動式銃をもたらした恩人でもあるし、話を聞くと王国はクーデターでボロボロの状態だという。そして、フェリスは自分が原因だと言わずに、魔王は王国を見限っていると吹き込んだのである.今なら王国を獲れるとして。
東の大陸の上層部は膠着していた状況に光を見いだし、魔界と同盟し、王国を攻めることに決定した。
その話は魔王ミカの元に届き、呆れさせた。この前やっていたことと180度(この世界でも円は360度に分割される)違うのである。
――人族って奴はしょうもないの。
もう何万回思ったか分からない思いを魔王ミカは抱いたが、またかというだけで、怒りは感じなかった。利益になるように動くのが人族である。そして、そんな欠点を認めつつ育てて行くのが魔王の秘密の使命でもあった。
但し、一緒に王国を攻めようという提案は断った。前代の勇者との約束を違えることとなるし、ラウルの母国という遠慮もあったので。
あくまでも手は出さないという条件で見守ることにしたのであった。
王国は昨日の友が敵に回ったと気付いたときには遅かった。魔界に応援を頼もうにも敵として扱っている。孤立した王国は風前の灯火となったのであった。




