66・秘技
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「ラウルよ、勇者の秘技の取得に戸惑ってるようじゃな。コツを授けよう」
魔王ミカはいきなり言った。
「わかりました。お願いします」
ラウルは秘技についてまだ理解が足りてなかった。
「妾は呼吸しないからコツの取得に少々掛かってしまったが、人族のラウルには簡単かもしれん」
「呼吸?」
「簡単じゃ、相手をよく見て呼吸を合わせ、カチリと合ったところで、戦意を抜き落とすだけじゃ。これだけで戦意喪失する」
「簡単なような、難しいような」
「なんの、呼吸しない魔族に向かってこの術を行使した前の勇者は凄かったが、要はそういうことじゃ。今回の敵は人族。楽に取得できるじゃろうて」
「個々の敵はともかく、集団の敵にそのようなことができますでしょうか?」
「うむ、いい質問じゃ。それは、敵集団の呼吸を一つにするのじゃ。例えば……」
魔王ミカは剣を抜いた。太陽の光をギラリと反射し、一瞬息が止まった。
「それそれ、注意を一点に向けさせ呼吸を均一化する。そこでこちらも呼吸を合わせ、戦意をなくす」
ラウルは腰の剣がずしりと重くなったのを感じた。さっきまで愛らしかった魔王ミカが、偉大なる王者へと変化していた。
「なるほど、理はわかりました。催眠術ですね」
「その通り。しかし、魔族に催眠なんて効かぬはずじゃが、誰も傷つけずに妾の前に立ったのじゃ、あの勇者は。その技術は妾も取得できなかった。人族には効果あったが仲間には効かん。謎じゃ」
「どうやって練習すれば良いのでしょうか」
「この技は誰も傷つけない。家族でやってみればいい」
「父か兄上に練習台になって貰います」
家族を亡命させて本当に良かったとラウルは思った。命の心配をせずに済むし、練習台にもなって貰える。友が敵に回ってしまったのは残念だが、いつかわかり合う機会もあろう。なにより、この技を使えるようになればお互い遺恨を残すようなことは減るはずである。
「まずは呼吸を意識して行う事じゃ。この技はこれから始まる」
魔王ミカは優しげな顔をして、ラウルを励ました。




