65・謀略
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
人族連合軍は苦慮していた。大軍を率いていっても魔王ミカが出てくると皆戦意を失って撤退してしまうのである。
――これは、勇者ラウルスの伝説の技。それを敵である魔王に伝授していたのか。裏切り者め!
王子は激怒して廷臣に当たり散らした。もしや、フェリスにもできるのかと問いただしたら、「我らの力ではありません」との答えでなおさらむかついた。
――これができるのなら千年前と同じく魔族など屁でもないのに。
そもそもどこからこの力が伝授されたのか資料を調べさせたが、流れ者の剣士の口伝としかわからず、勇者ラウルスの死とともに技術は散逸してしまっている。
――当時の連中は馬鹿揃いか!
ラウルスを毒殺したという逸話が王家に伝わっていて、それがまたむかつくのである。
敵が居なくなったら最大の功労者を排除する。それが人族の習わしである。
改めて和平を結ぼうにも宣戦布告してしまった以上引っ込みが付かない状態である。
「第一王子!」
敬称を付けずに呼びかけられ、ムッとして振り向くとフェリスが居た。
「なにか案でもあるか?」
「魔王には勝てないかも知れませんが、戦わずに言うことを聞かせることはできます」
「お主、勇者の技は使えないと言っていたであろう?」
「そうではなくて、人質を取るのです」
フェリスは悪い顔をしていた。
「言え」
「魔王の婚約者であるラウルを人質にとれば魔王とて言うことを聞かざるをえないでしょう。そして、ラウルは私ほど強くない」
「ふむ」
「私に数人の手練れの供をください。ラウルを誘拐してきましょう」
「できるのか?」
「恐らく可能かと」
王子はしばらく沈思すると、
「やってみろ」と答えた。
近衛騎士団から何人か選抜して付けることにした。
――まあ、騎士団数名とフェリスの命くらいどうでもいいわ。
そう内心考えながら。
「最悪、ラウルを死体にしてでも持ち帰ります」
「まて、魔王が激怒してとんでもないことになるのは困る」
「戦争状態ですぞ。甘いこと言ってられません。ラウルが死んでも、遺体を取り返すために言うことを聞くとおもいますよ」
こうして、ラウル誘拐計画は始まった。




