64・暇つぶし
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
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魔界でも雨は降る。最初はポツリポツリと降っていたものが、ザンザン降りとなって、用のない者住人たちは魔王城に籠もっていた。
ラウル一家は客人として迎え入れられたという事情もあり、しばらくは退屈を持て余していたが、それぞれすることを見つけていた。
とりあえず、魔界文字の取得である。図書室に先進的な知識が納められているとラウルから教えられてそれを学ぶのが仕事である。
魔界文字は43文字から構成される。それを学んで単語を覚える。人族の単語がそのまま出てきたりするが、古代の知識となるとかなり変容していて辞書がないと意味が取れない。
苦労する父に妹のナルが、
「これ、サルラ地方の方言に似てますわ」と教えた。サルラは昔から魔界と交流があった地域だ。
「ラウル、お前はこれを読めるのか?」
「いいえ、父上。私も読めません。剣の修行ばかりで。分からないことはテルゴウス様に聞いてました」
「テルゴウス様は忙しいから手を煩わすわけにはいかんのう。司書のワ様に聞くしかあるまい」
とりあえず、学習方法を魔王ミカに聞いたらワに聞くとよいとのこと。
――あれは、本の虫じゃ。蔵書のことならワに聞け。
どうも蔵書から知識を引っ張り出すことに特化した魔人のようである。翻訳もでき、いわゆる異世界の検索マシンという存在である。
「魔法についていろいろ知りたいな」兄は言う。
「人族に魔法は使えましょうか?」ラウルは疑問を呈した。
「ワさん、人族でも魔法を使う方法はありませんか?」
隅で控えていたワに兄は尋ねた。
――あります。まず魔素を体内に集め、それを『踏み台』として魔法を実行します。魔族は元々、魔素からできているのですぐに実行出来ますが、人族は集中してからでないと実行出来ません。魔素を集中するために詠唱するのであって、詠唱は格好つけではありませんし、間違っていても魔法は実行できます。これが人族の魔法です。
「できるのか? その技術は継承されてないようだが」
――2千年前ほどに失われました。年代記によると当時の王国が魔道士を異端として全員排除したそうです。
父は額をパシッと叩いて呻いた。
「道理で、千年前に滅亡寸前までいったはずだ。王国は自分の首を絞めていたようだ」
「ご先祖様が出なかったら負けていたでしょう、父上」ラウルは言った。
戦いそのものを回避する術をもった勇者ラウルスの偉大さを今更ながら子孫たちは思い知ったのであった。




