63・幸せ
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
側女のネミラを下がらせると、魔王ミカはラウルの横に座った。
「菓子のネイミスはどうじゃ?」
「ありがとう、ミカ。取り乱してごめん。てっきりミカが死んだかと思って……」
ラウルは自分の失態を恥じた。フェリスとの戦いに出てくるなと厳命されていたのだ。ただ、必死に魔王ミカを助けようと思って前線に出てきてしまったのであった。
「よい。あの程度大したことでは無いと伝えて居なかった妾が悪い。その……いくら魔族とは言え、人族とは命の形が別だと知られて引かれるのもちょっと嫌だったからの。自分が人族でないのを恥ずかしかったかもしれん……」
「そんな、魔王様は魔王様。人より好かれているし、みんなに尊敬されているし、私も……好きで」
互いに視線を交差させると二人とも膝元に視線を落として赤くなった。
しばらく沈黙があって、魔王ミカはラウルの片手に手を添えた。
「でも、助けに来てくれたと知ったときは嬉しかったぞ」
「騎士の勤めですから」
「ただ、お主ではフェリスに勝てぬと考えている。ポンコツクリエーターがどこまでの力を奴に与えたか知らんがお主を戦わせるわけにはいかぬ。修練せよ。奴の相手は妾じゃ」
「主人に守られる騎士というのも情けない」
「主従ではない、夫婦になるんじゃろ、わしらは」
始まりの丘のクリエーターは人族を不老不死にしてくれるだろうか? 一度行って確かめてみようかと思う。
「妾にも苦手なものはあるじゃろう。例えば内政とかテルゴウスにぶん投げじゃ。お互いの欠点をカバーしあう関係で良いんじゃ。何も100点満点の夫になれとは言っておらぬわ」
「私に務まりましょうか?」
「務まる、務まらないではない。ただ、永く側に居てくれればそれでよい。十分だとは思わんか?」
「ミカの愛情が深くてもったいないです」
――病めるときも健やかなるときも。
そんな言葉が異世界にあったのを思い出した魔王ミカであった。
「それはそうと、お主の父上がなかなか妾を娘扱いしてくれぬのが不満じゃ」
魔王ミカは笑いながら言った。確かに遙かに年上で異種族の魔王を結婚するからって娘扱いできるほど、肝っ玉が太い男はそういないだろう。
「ミカは人族の習慣をよくご存じで……」
ラウルは苦笑いしながら言った。たぶん、父は慣れることはないだろう。
「よい。お義父たち一家の面倒をみる甲斐性が妾にあって幸せじゃ」
「確かに」
お互い笑って、手を絡めたのであった。
Kindle1巻目終了です。次はフェリスとの確執がメインとなります。




