61・再生
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ラウルは転送魔法の紋章に飛び込んだ。続いて四天王も飛び込む。
――ラウル様を死なせてはならない。
皆そう思った。
地面に二つに分かれて転がった魔王は、すぐさま立ち上がると頭を拾い胴体に付けた。
「人間のお主と違って妾は元はちがうのじゃ、細切れにしようと大したダメージは受けぬ。まあ、ちょっと驚いたが」
「ミカ!」
ラウル以下四天王が現れた。
「ラウルか、来るなと言っておいたのに。ラウルに何かあったらどうしたらいいんじゃ。妾なら大丈夫じゃ。まあ、ちょっと嬉しい気持ちも有る」
「魔王様、そんなことを言っている内にフェリスは逃げたようですぞ」
四天王のルーンが辺りを見回して言った。
「油断したな。千年も戦っておらんかったからな。まあ、あの小物にも用心せんといかんな」
むしろ、これならどうしたら魔王ミカを倒せるのか? と、ラウルは思った。
その考えを読んだように魔王ミカは続けた。
「妾を切っても仕方ない。再生するし。魔剣ガウスレベルならなんとかなるが、アレは切るのとは違うしなぁ」
魔剣ガウスには秘密があるらしい。賜った剣の能力がラウルにはまだ分からない。まだ使いこなすのには修行が必要らしい。
「フェリスは逃げましたし、両軍撤退しておりますので、我らも帰りましょう」
四天王のガメールが具申した。
「そうじゃな。帰るか」
「それにしても、驚きました」ガメールは続けた。
「皆に心配かけて済まぬ。ちょっと油断した」
「馬鹿っ! 心配どころの騒ぎじゃなかったぞ! ミカが死んだら……死んだら……」
このように心配されたのはラウルス以来か……、魔王ミカは嬉しさと申し訳なさの両方を感じた。
「済まぬな。言っておいた方がよかったかな。でも、ラウルに化け物と思われるのもちょっと嫌だったのでなぁ」
「あ、皆さん知っておられたので?」ラウルは目をパチクリさせた。
「もちろん、テルゴウス以下皆知っておる。四天王が付いてきたのはお主を守るためじゃ」
「あっ……」
「皆に慕われるのも王の器ぞ」魔王ミカはニヤニヤして言った。
四天王は大きく頷いた。魔王ミカ様、ラウル様に付いていこうと腹が決まっていたのだ。
全員、転送魔法の紋章の中に入る。跡はエンジニアが消してくれる手はずになっている。
――フェリスこそ取り逃がしたが、面白かったわ。
魔王様は退屈から逃れた。