57・混乱する王国
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
王都は大騒ぎだった。ラウルの一家は行方不明。家は焼失し、入れ違いに拘束に行った兵士は一家を見いだせず焼け出されて大けがをしたとあれば、逃亡しか考えられなかったのである。
――なにをしているのか。
王子と王女は部下を叱責した。もっとも部下は悪くない。命令を下した当人の決断が遅かっただけ。後手後手に手を回して取り逃がしてしまった。
責任者を処刑しろとまで激高する王女に向かい、「そんなことしたらラウル殿に嫌われてしまいますぞ」と宰相が宥めた。
「ああ、ラウル様は妾の事が嫌いになったのか。魔王と婚約したという話は本当なのか」
王女は泣き崩れた。
そもそも、ラウルと王女に繋がりはあったのか? と実権を握った王子は考えたがその思いを打ち消して王女に言った。
「妹よ、ラウルは裏切り者であることがこれで判明した。懸想するのは止せ。もともと釣り合う身分でもない。下賎な一家だ」
「あい」
「で、一家の行き先はわかったのか?」王子は報告した兵士に尋ねた。
「それが、全く空気にでも消え失せたようで、不明です」
「魔法の品を使ったか。ベース、心当たりはないか?」
宰相ベースは天を見上げてしばし考えたが、
「王子、残念ながら思い当たる品はありません。魔法の品については魔界が秘蔵していて、我らはその極一部しか知らない故」
「そんなことで魔界相手に戦えるのか! 馬鹿が!」王子は叱責した。
心の中では反戦派だった宰相ベースは黙って頭を下げた。
「殿下、東の大陸の使者が来ております」取り次ぎの兵士が奏上した。
「通せ。待て、妹はそんな姿を見られるわけにいかん。退出せよ」
王子は冷静さを装いながら命令した。
姫と兵士が退出した後、東の大陸の使者と対面することになった。今度は何の話か。新しい兵器の話だとありがたいのだが。
今度は王子の望みは叶えられた。銃。最新式の連発銃を持って使者が現れたのだった。そして、側にはフェリスが同席していた。