56・亡命計画・後編
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「父上」最後に門を通ってきた姿にラウルは呼びかけた。
「あの者は大丈夫か? 手引きしてくれた者は」
ラウルの父は心配そうに振り返った。転送門は消失していた。
側に居た魔王ミカが一家の前にでると、
「お初にお目に掛かります。ミカと申します。魔界で魔王を名乗らせていただいております。かの者はテレポート能力がありますので、後始末をしたのち逃れる手はずとなっております。ご心配なきよう。お父様」
と、頭を下げて挨拶した。
ラウルの父は、目をパチクリとして、
「そなたが魔王ミカ……殿か。その様子だとラウルが手紙に書いてきたことは真の事だったようだの」
「かなり年上ですが、仲を認めて頂けるでしょうか? お父様、お母様」
「父上、母上、こんな形で紹介するのもなんですが、ミカを妻として認めてください」
一瞬、言葉に詰まった父を母が突っついて答えた。
「良いじゃありませんか。この子が幸せになるのなら。気を悪くしたらごめんなさいね。子供作ることはできるの?」
ラウルは赤面した。魔王ミカは答えた。
「はい、私はラウルの子供も産むことができます」
「その様子だと、清い関係のままじゃな。兄が妊娠させてから報告に来たのと大違いじゃ」
「あなた、もう良いではありませんか。今は立派な跡継ぎですよ」
「そうだな。一家見事に逃げ出す事ができた。魔王ミカ殿に礼を言わないといかんな。感謝する」
「ラウル、魔界での我々の処遇はどうなるのだ」兄が質問した。
「妾の親族という扱いになります」ラウルが答える前に魔王ミカが答える。
「そ、そうか。ちょっと居心地悪いな」
「兄さん、おめでとう」妹が言った。
「ナル、ありがとう。ナルこそ無理矢理こっちに来て貰っていい人はいなかったのかい? 居たのならその人にも来て貰って……」
「それがここ数ヶ月で別れ話切り出されちゃって」
「すまん、俺のせいだ」ラウルは罪悪感を感じた。
「待て、そんな腰抜け野郎と付き合っていたのか? そんな男に嫁に出せんぞ」
話を聞いていた父は怒りを露わにした。
――時々、人族はこういうのがいるが、仕方ない。
魔王ミカは思ったが、それはそれで長年見慣れた光景であった。
「元々魔界にも人族は住んでいるし、商人も多い。よければ魔人だって紹介する」
魔王ミカはナルに言った。
「ありがとうございます、お姉様」
そう妹に言われて、魔王ミカは人族みたいに頭が痒くなった。
――お姉様か。悪くない。
「では、お部屋へ案内しよう」
荷物を従者が持ち上げ、一行は魔王城の一角に向かったのだった。




