55・亡命計画
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「ラウル様、ちょっといいでしょうか?」魔王ミカはラウルの横に座って言った。
「ミカ様、私に『様』なんて付けないでください。あと敬語は不要です」
「おほん、それはお互い様じゃ。ラ、ラウルよ。なんかこう意識してしまってつい……」
「そ、そうです……そうだね」
魔王ミカとラウルは視線を交わすと赤面し、ついと視線を外す。
「懸念しているのじゃが、ラウルの家族のことじゃ。王国ではお主は人質に取られたか、裏切り者として扱われていると聞く。この際、安全のためご家族も魔界に迎えたいと思うがどうじゃ?」
慌てていても、言うべきことは言うのが魔王ミカらしい。政変が起きたことによって、ラウルの一家はますます肩身が狭くなっていると魔王ミカは続けた。王国そのものが先行きが不明になっているので、考えた方がいいと説いた。
「父が受け入れるか分からないけど、手紙を書いて説得する」
ラウルはそう言い切った。そして、視線を外したままミカの手を握った。
「良かった。好きよラウル」ミカはラウルの肩に頭を預けた。お互い、心臓がバクバクしているのを感じながら。
数日後、ラウル一家亡命作戦の計画が立てられた。対象は父、母、兄と嫁と幼い息子、そしてラウルの妹。総指揮官はレムス。幸いというか、家族は監視下に置かれていたので一つの屋敷の中に閉じ込められていた。一気呵成に転送する。
まず、普段はワインセラーになっている地下室に秘密裏に部品を送り転送門を組み立てる。全員送り出した後、火炎球を起動し屋敷ごと焼き払う。これなら気付かれずに一気に亡命させることができる。
まずは使者を出した。テレポートが使える魔人にラウルの手紙を託した。なお、この魔人が転送門の部品を運んで組み立てるのだが、テレポートできるのは近距離だけで、持てるのは手荷物くらいだという制限があるため、部品ごとに運ぶ手はずとなっていた。
ラウルの父は突如現れた異人に全く動ぜず手紙を受け取ると読み始めた。
父は簡易に返事をしたためた。
――準備して待っている。
とのことだった。
それを以てレムスの亡命計画は発動した。
仲間内でエンジニアと呼ばれた魔人は数日掛けて地下のワインセラーに部品を持ち込むと転送門を組み立て始めた。巻き尺、コンパス、分度器で正確に計り組み立てる。
完成後、父に報告する。門の発動時間は早朝。夜は灯火が廊下を移動するので却って外から怪しまれる。
子供たちに最小限の身の回りの品だけ持ってくるよう言ってその夜は就寝した。
早朝、皆、地下室に集まったところで異変が起きた。
王室からの使者が訪ねてきたのだ。
――おはようございます。開門をお願いします。
しかし、中から返事がない。駐留していた警備兵が怪しんでドアを蹴り開けて入ってきた。
――急いで門を渡ってください。
全員を門の向こうに送り出す。一度に二人しか送れないので、3度転送門は起動する。
警備兵は上階を順々に探して回り地下に来るのが遅れた。
全員転送したのを見届けるとエンジニアは火炎球を転送門に投げ、光ると同時にテレポートした。
屋敷は火炎に包まれた。




