53・風向きの変化
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さて、王国では混乱が生じていた。千年来の魔界との和平を反故にしようとする一派に反発が生まれたのだ。前の大戦は魔界に勝ったのだし、今は交易も盛んで王国の竜騎兵も魔界のワイバーンなしでは話にならない。
騎士ラウルが魔王の捕虜になったという噂も公式には婚約したという話になっている。それを確かめずに東の大陸と結託して侵攻するのはどうか。
そもそも、騎士ラウルは大使の従者の一人であって重要人物ではなかったはずだが、姫が「魔王ミカを滅ぼして、ラウルを取り返せ」と言っているし、クーデターで実力を握った第一王子が魔界侵攻を企てているのである。
王は退位させられ西の塔に幽閉された。反対派は粛清され、議員にはそれぞれ監視者が付けられている。
レムスは上がってくる情報を眉をひそめて読んでいたが、状況が簡単に変わってしまったことに困惑するしか無かった。コツコツと組み上げたものが一気に崩れ落ちて新しいものになってしまう。
魔王様やテルゴウス様に会わせる顔がない。
しかし、気を取り直してテルゴウスに報告に重い足で向かった。
「テルゴウス様、此度は私めの失態で、こんなことになってしまい……」
「レムス、其方は何歳になるかの」
「はっ、641歳だったかと」
「大戦は経験してないか……気にするな。状況はちょっとしたことで風向きが変わる。山火事でも、『風向き』が変わって安全だと思っていた自分のところに火が迫ってくることがある。そう珍しいことではない」
「しかし……」
「前の大戦も魔界が押していたのだ。それが、勇者ラウルス様一人で倒してしまった。そんなもんだよ」
レムスは項を垂れた。確かに途中までは3者和平が順調に進んでいたのだ。それをフェリスという者が一人でひっくり返してしまった。ある意味、彼も勇者の一人と言えるかもしれない。
テルゴウスは続けた。
「魔王ミカ様へは取りなしておこう。というか、魔王様は悪く思ってないぞ、レムス。そなたの昇進の話は消えてない。今まで通り働き続けよ」
「はっ、ありがとうございます」
レムスは頭を上げられないまま部屋から退出した。
帰り道、ラウルと出会った。
「レムス様、ちょうど良いところで出会いました。私は王国に戻って誤解を解いた方が良いのでは無いかと思いますがいかがでしょうか?」
レムスは魔界きっての王国通だ。だから聞いてきたのだろうが、人族を信用してはならぬとつい最近も痛感したばかり。
「止めてください。魔王ミカ様が心配されているように向こうに行ったら逮捕され魔界ととの取引材料とされます。誤解というレベルではなく、悪意のある流言飛語です。おそらくは、人の良いラウル様を狙った罠です」
レムスは全力で止めた。魔王ミカ様も同意見だろう。
「そうか、ふるさとがおかしくなってるのを指を咥えてみてるのも辛いな」
「ご心中お察しします」
もう戦争は避けられないと悟った瞬間だった。




