52・フェリス覚醒
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東の大陸の大臣たちはフェリスの力に瞠目した。最初は口ばかりの若造が吹かしていると思ったのだが、軍事大臣が、
「それならば、港に停泊している老朽艦を切って見せよ」
と、言ったら、逡巡の色も見せず、
「では、港まで案内してください」と言って、その場で超ド級(この世界にもドレッドノート級がある)の軍艦を一刀両断し撃沈してしまったのだ。
――魔王並みかもしれない
そう思わせる力であった。大臣たちは開いた口が塞がらなかった。
これで、主戦派は和平派を上回った。レムスの工作による厭戦気分は形勢は逆転してしまった。
そして、まず東の大陸は王国と安全保障条約を結んだ。名目上は防衛協定だったが、内実は王国を属国とするものであった。
レムスはその条約が結ばれるのを歯噛みしながら見守った。千年の王国と魔界の和平が反故にされようとしているのだ。心穏やかでは無い。レムスの親友が王国に商店を出して繁盛していたが追われる羽目となってしまった。自分の至らなさを痛感したレムスは思いあまって魔王ミカに辞職を願い出たが魔王は思い止まらせた。
「ワイルドカード(この世界にはトランプがある)が出たのじゃ。流れを変えられてしまったのだから仕方ない。お前はよくやっている。このまま続けておくれ。辞められるのは本意では無いぞ」
と、慰留した。全ての魔族の母である魔王ミカは子供たちにも優しかった。
レムスは唇を噛んで慰留を受けた。
「それよりも、勇者フェリスの情報について集めておくれ。かの者の力が気になる」
確かに、魔王に匹敵する力があると豪語しているフェリスについて調べ上げなければならないだろう。
そもそもフェリスとは何者か、何を望み、何をやろうとしているのか? その力はどこから得たのか知りたいことは山ほど有った。
レムスは仮面の男にフェリスについて調べることを命令した。
フェリスは奴隷を抱いていた。そして抱き飽きたら生肌に焼きごてでくだらない言葉を書き付けてるのが趣味だった。
――王女もいずれこんなふうにしてやる。
悲鳴を上げ気絶する奴隷を片足で力一杯蹴りつけたら、反応が一切なくなった。
死んだようだ。
そとの見張りの男を呼び寄せて奴隷を運び出すように言った。
否。東の大陸では奴隷は解放されており名目上は居ないはずだった。転がる死体は誘拐してきたどこかの貧民窟の娘。
――また新しい奴隷を用意して貰うか。
自前で娼婦を拾うより、国の機関に用意して貰った方が楽で良かった。フェリスは美形だったが、その視線に悪寒を感じる女は多くなかなか捕まらなかったのだ。
――権力を持つのは楽しくて良い。
そう思った。




