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50・フェリスの生い立ち

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

 フェリスの母は子供の時から生き物を育てるのが下手だった。豪農の生まれで、庭に池があった。何の気なしに農薬を池に流し込んで飼ってた観賞魚を全滅させてしまった。誰も見てなかったし、横でぷかぷか腹を見せて浮いている魚たちを悲しんでいるようにしか見えなかったので、責める者はだれもいなかった。


 祖父は鳥たちのために、餌を載せる台を作って餌付けしていた。祖父はニコニコしながら眺めていたが、彼が目を離した隙に、娘が台に載っていた小鳥を握りしめて殺してしまった。単に可愛くて暴れる小鳥を放さないようについ力を込めてしまったという話を祖父母は信じた。


 少女時代が終わる頃、犬がやってきた。番犬として飼われたものだったが数年で死んでしまった。庭の片隅にあった毒草が消えていたのを知っているのは娘だけだった。


 最初は愛し、すぐに飽いて殺すのはこの娘(母の)習慣となっていた。


 嫁いだ先で3人の子供を生み、上の二人は幼い頃に死んでいる。別に文化レベルが高くないのでそれ自体は不思議では無い。子供は、流行病や事故で簡単に死ぬものだ。生まれた子供の2/3が早世するのはよくあること。


 ただ、父は何かを感じたのか生まれたばかりのフェリスを連れて家を出て行った。


 フェリスは暴れん坊に育った。父親から厳しく育てられたのが裏目にでたのかもしれないし、母の愛を知らない育ちなので同情する余地はあるかもしれない。


 しかし、幸運なことに成人するまで生き延びた。


 母の元に行ったときに紅茶を飲んだところ激しい下痢に見舞われて以来、通うのを辞めたことがある。母は父に「薬」を届けたが、賢い父はフェリスに飲ませること無く経過観察するだけで治った。


 フェリスは生き延びたが、冷たい棘を母から継承して育ってきてしまった。


 ある日、父を火事で失った。出火原因は不明。なぜか玄関が激しく燃えていた。普通台所が出火原因なのに不思議なことだと噂された。放火が疑われたが犯人は分からない。すでにフェリスは家に居着かなかったので難を逃れたのだった。


 フェリスの家庭を知るものは「あそこは変だったよ」としか口々に言う。新勇者になったのに縁談の一つも来ないのはそのせいだった。


――呪われた一家

 皆、そう言った。フェリスだけがそれを否定しようとしていた。


――王になれば皆を黙らせることができる。

 試合に出たときに、相手に情けを掛けず徹底的にぶちのめした。止めを入れようとして止められたこともある。


 邪魔するものは皆殺しにする、それは彼のポリシーだった。


 勇者の伝説の剣技とは相反するものであった。

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