49・婚約の波紋
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
魔王ミカと騎士ラウルとの婚約は即座に王国へ通告された。
それは、ラウルの予想よりも大きな影響を及ぼした。まず、王女が激怒する一方で魔界との絆が深まったと喜ぶ声も元老院から上がった。
王女はラウルが魔王の捕虜になったと周囲に訴えかけた。彼が愛しているのは私だと。だが、千年前勇者を出した家系とは言え、かろうじて貴族の末席を汚していたラウルへの思慕は身分違いの戯れ言として相手にされなかった。
王女は思いあまってラウルに手紙を出したが、
――王女様には私はふさわしくありません。お忘れ置くよう願います。
と、言うつれない言葉が返ってきただけであった。王女はその手紙を読むとその場で気を失い、王や王子たちを心配させた。
――妹に恥をかかせやがって。
第一王子は憤慨し、秘密裏に新勇者フェリスを呼び出した。
「フェリスよ。余はそなたを高く買っている。この小癪なラウルを消せるか?」
王子は尋ねた。フェリスはその端正な顔を歪めると、
「今ならたやすく殺せるでしょう。神の力を得ましたゆえ」
「それは幸甚。報酬は何がいい」
「王女様をいただきたく」
そして、王位を頂くと、心の中で付け足した。
「父上は三国和平を結ぼうとしているが、余は東の大陸と合同で魔界を攻めようと思う。ラウルと魔王ミカを討ってくれ。そうすればお主を弟と呼んでやる」
「ありがたき幸せ。失望はさせません」
「精鋭部隊をつけてやろう」
「いえ、足手まといはいりません。身一つで倒して参ります」
そう言い切るフェリスを見て第一王子は不気味さと底知れぬ不安を感じ始めた。その自信の根拠と、果たして上手くいったら妹をこれの妻にするのは正しいことなのかと。正直第一王子は体面を気にする一方で、視野が狭い王女を煙たがっていた。ラウルより強いと分かれば妹はフェリスのことを気に入るだろうか?
王になる可能性が強い第一王子は心の中でフェリスのことを警戒し始めた。そのとき、ラウルと魔王ミカのことは綺麗さっぱり忘れていたのである。
そして、第一王子はクーデターを起こした。王以下、和平派は皆逮捕され、幽閉された。人族優秀主義は東の大陸の発展で証明されたとみる人間が一定数いて、伝説の勇者の力が無くても魔界に勝てるという意見が広がったのだ。
東の大陸では厭戦工作は一定の効果を上げていたが、異物排除の声は常に大きく、また自分の土地には影響がないと踏む人間も多く、魔界と対決する意見が広がってきつつあった。
――祖先の土地を取り返せ
東の大陸のスローガンである。レムスはせっかくの工作が失敗しつつあるのを歯噛みしながら見守るしかなかった。




