48・プロポーズ
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魔王ミカはラウルの居室の前で逡巡した。ラウルは妾と王女どちらを選ぶだろうか。人族とは別の生まれだが、人族と暮らしている内にすっかり考え方が染まっているのを魔王ミカは感じ、ほのかに微笑んだ。
この時間はラウルは自室で勉強をしているはずであった。魔界の歴史、地理、魔法、魔物、幹部の記述、哲学、そして王国の真実の歴史。それらを学んでいる。剣術以外に学ぶことは多く、しかし興味深い知識の塊に少しずつ食らいついていた。
魔王ミカは意を決し、扉を叩いた。中からラウルの声で「どうぞ」と返答が来た。
ミカは腕輪を入れた箱を隠して入ると、
「ラウル、ちょっと良いか? 話がある」と言った。
ラウルは本を置くと、向き直って「なんでしょうか? ミカ様」と言った。
最初に会った人族の娘も結婚の報告に来たときはぎこちなかったと、痛みとともに思い出す。
「ラウル、妾から頼みがある。大事なことじゃ、断っても悪く取らんと言っておこう」
「なんなりと。私ができることならば」
「妾と……結婚してほしい」
「至らない私でいいのですか? 私は前の勇者様と比べると遙かに見劣りしますよ」
そんなことは気づきもしなかった。魔王ミカは今のラウルが好きだった。
「お主は前の勇者を超える。妾が断言しよう。そして、妾は……お、お主を、こ、好ましく思って、い、る」
魔王ミカは生まれ落ちた時には流れるように言うことが出来たであろう言葉を、たどたどしく語った。かなり人族に毒されてしまったようだ。
「返答は? 断ってもいいんじゃぞ」
「強気なミカ様とも思えないお言葉で。この場合、『妾と結婚しろ、選択の余地はない』でしょう。もちろん、答えは『はい、お願いします』しかありません」
ん? 魔王ミカは戸惑った、それは……。
「受けてくれるというのでいいのだな? 王女がお主に懸想していると聞いているぞ」
「はい。求婚を受けます。王女とはなんの話です? 私は初耳ですが」
魔王ミカは脱力した。王女と争っているという話は噂話程度のものだったか。
後ろに隠していた婚約腕輪を出すと、
「これには魔法とか掛かっていない。婚約破棄は自由意志だ」と言い、お互いの左手にはめた。
人族の王国の婚約の習慣である。
「これで私はあなたのものです。ミカ様」
ラウルはそう言うと、ミカにキスをした。飲み物の甘い香りがした。
「私の一生をあなたのために捧げます」




