42・魔界の大使
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ラウルが王国に着いたと同時に魔界の大使が東の大陸に着いた。転移門のことは秘密だったので今回は大使は飛龍に乗っていった。
首都の手前で降りるとすぐさま東の国の兵に取り囲まれる。飛龍はするすると小さくなり握り拳の大きさとなり、大使の腰の荷物入れに収まった。
そして取り囲む兵士を気にすること無く、こう宣わった。
「我は魔界の大使なり。三国の和平と繁栄について話がある。会談を望む。取り次がれたい」
兵は銃口を下げ、首都に伝令を出した。
しばらくして、高官の乗った車が来て丁重に言った。
「どうぞ、お乗りください。大使お一人だけですか?」
「そうです。まあ、魔獣は連れてますがね」と、片目でウィンクした。
高官は誤解が重なればこの大使を殺していたかもしれないと思ったがそうでもないらしいと悟った。互角以上に戦える魔人を寄越したようだ、魔王は。
「して、我が国になんのご用で」
「秘密のお話なので、会談の時にでも」と、答える大使。
首都に入り貴賓室へ通される。
「ただいま大臣を招集しておりますので、しばしお待ちを」
貴賓室というのはどこでも似たような物だなと大使は思う。壁に掛けられた大きな絵、ふかふかの椅子。芸術品と言って良い机。
「ドレイブはお吸いになられますか?」
――ドレイプ? ああ、煙を吸う嗜好品のことか。軽い麻薬の一種だ。魔人には全く効かない。
「いえ、結構です」と断る。
しばらくして、会議室へどうぞと声が掛かった。
会議室には首相以下大臣たちがいた。大使は彼らの顔を見渡すと、自己紹介をする。魔界の全権大使であると。
そして、三国同盟に利点について蕩々と述べ始めた。魔王ミカ様は戦争は望んでおらず、三国の繁栄を願っていると。魔王ミカの文書を読み上げた。
――私は、お主らの技術力と王国の力、魔界の魔力によって、星々へ手を伸ばしたい。道は遠いかもしれないが、100年後、200年後に実現させたい。協力してくれないか……
魔王ミカはまだ、自身を作ったクリエーターの話はするつもりは無かった。それは、いつしか教えることとなろう。だが、今では無い。
とりあえず、目の前の戦争を回避し、協力させることが目的だった。人間は目先のことで争うが、共通の大きな目標を掲げると協力するようになる。
それも、前の勇者から学んだことだった。
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