39・和平提案
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新勇者フェリスは唇を噛んだ。たまたま遭ったラウルとおぼしき騎士に正面からぶつかって互角どころか歯牙にもかけられ無い状態だったのだ。
正直、これほどの実力差は予想してなかった。闘技会で優勝した自分の実力を過信していた。もしかして、ラウルが闘技会に出ていれば負けていたかもしれない。いや、ここ半年魔王の下で修行した結果かもしれない。肩の魔物は魔王に与えられた物だろうし、あの剣は勇者の魔剣も通用しなかった。
結局は立ち止まった馬上の騎士に片手であしらわれてしまった。
――くそっ、次は思い知らせてやる!
フェリスは屈辱に身を震わせた。かくして置いた馬に飛び乗るといずこかへ身をくらませた。
ラウルは旅に半月ほど掛けて王都に到着した。
魔界に向かうときは家族しか見送るものが、居なかったが、今度は出迎える人々が多かった。魔界の使節ということもあったろうが、風格が半年前より一変していて、二度見して見送る民が多かったのだ。
――ラウル様は勇者様にお成りになった……
――新勇者より勇者にふさわしい
――勇者の再来だ!
一目見た者どもは口々にそうささやいた。
ラウル自身そういう視線がくすぐったかったが、余裕という物を修行で体得しつつあったのでさらりと受け流していた。
「王様と、宰相様にお目通りを願いたい。魔王様の代役で来た」
そう、馬を下りて衛兵に告げる。一刻待たされて王座に等された。
「よく来た。ラウルよ。見違えたな」
「はっ、皆様もご健勝でなにより」
「うむ、その装備は魔界の物か?」
「はい、魔王ミカ様より気に入られまして、鍛えていただいた上、貴重な品を与えていただきました」
「なるほど。して、魔王の伝言とは」
ラウルは王と宰相に魔王は3国和平案を考えていることを伝えた。魔界が東の大陸の戦力と技術力を調べた結果、協力して叩き潰すより、3国協力して発展していったほうが皆のためにいいのではないかという判断を下したとのこと。
「やがては星に手を届かせるか……」宰相は唸った。
「そんなことは可能なのか?」王は信じられないという風に質問した。
「魔王ミカ様は未来を視ておられます。星に手を掛ける。然り。3国和平。然り。東の大陸が王国・魔界連合軍に歯が立たないことは先の戦いで分かったことではないですか?」
「ならば、連合軍で東の大陸を制圧すべきでは」宰相は言う。
「ミカ様は和平をお望みです。前の勇者様の遺言を守っておられますし、せっかく育った技術を共有したほうがいいと思っておられます」
ラウルの自信に溢れた態度に、王と宰相は瞠目した。勇者を彷彿とさせるものがあったのだ。
「わかった。余とて争いは好まないのは同じじゃ。東の大陸の出方を見ようぞ」
「はっ」
そんなラウルの姿を姫が柱の陰から熱い目で視ていたのは誰も気づかなかった。
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