38・襲撃
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
現時点で160枚相当(半分は未発表)書いたのでKindle化する予定。
王都に向かう馬上のラウルはぼうっとしていた。魔王ミカから好きだと言われ、ミカのことが頭から離れない。私も恋をしているのだろうかと、思いながら。
ミカ様は可愛くて、ちょっと色気があって、表裏がなくて、勇者との約束を千年も守っているほど律儀で……好きなのは勇者であって私ではないのでは? そう思って懊悩する。
「ガウス、どう思う」ラウルは魔剣ガウスに話しかけた。
「ははっ、恋バナですか? 勇者は失われて久しいだけでは不満ですか?」
「元彼に懸想する代わりに私に好意を寄せられているような感じがして」
「でも、あなたを認めてるよ。でなければ我が剣をあなたに与えたりしないですわ。その右肩に止まってる使い魔タローも与えたりしない」
「うん、そうだ。ただ、顔が似ていると言うだけで……」
「似てるかな―。最初は似てると思ったけど、話してみると割と違うよ。君は君だ。それもひっくるめて気に入られているんだと思うよ、ミカちゃんに」
「そうと良いのですが」
「だって、……ラウル、警戒せよ」
魔剣ガウスと使い魔タローは警戒モードに入った。ラウルは馬を止めた。
道の真ん中にゆっくりと覆面の男が出てきた。
「ラウル殿とお見受けする。悪いがここで死んで貰う」
シャリンと音を立てて鞘から剣を抜く。
「悪いが、なぜ殺されないと行けないか理由を教えて貰えるか?」
男は覆面の下でふっと笑ったようだ。
「そんなものは知る必要は無い。邪魔なだけだ」
――気をつけろ。相手が持っているのは魔剣だ。
魔剣ガウスが忠告する。何者なのか?
敵は飛び上がり馬上のラウルに斬りかかってきた。魔剣ガウスでその剣を捌く。
――おおっと、雷属性か。この剣見覚えがあるぞ。ラウルスに代わりに渡した魔剣じゃの。
え、暗殺者は王国の手のものか?
「その剣はどうした。勇者の剣のようだが」ラウルが尋ねる。
「教える必要は無い!」
第二撃を軽くあしらう。自分はいつの間にか格段に強くなっていることにラウルは気づいた。鍛錬の成果か、魔剣ガウスのおかげか。
思ったより上手くいかないことに気づいた敵は、距離を取って何かを始めた。
「タロー、やれ!」
その何かが発動する前に、タローの火炎が飛び出し敵を炎で包んだ。防具に耐性があるらしく、ダメージは通らなかったが相手にならないと悟ったのか脇の藪の中に逃げ込んだ。
――戦意喪失じゃの。追うだけ無駄だ。
魔剣ガウスはそうラウルに忠告した。戦い慣れていてこんな時の判断は的確だ。
「何者なんだろうか?」
「お主がミカちゃんとよろしくやっているのを気に入らない連中じゃろ。王国の総意なら一人だけ送ってきたりしないわ」
「そうか」
結局、立ち止まった馬上から一歩も動いてないラウル。実力差は明白だった。
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