36・クリエーター
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魔王ミカは東の大陸の視察から戻った後、始まりの丘に立った。今回は供は連れずに。ラウルを連れていったのが例外中の例外なのだ。ここは聖地。魔王ミカの許可無く誰一人としては居ることは許されない。
魔王ミカはここで生まれ、魔族は魔王ミカの身体から生まれた。木は無く、だだっ広い草原とまばらな岩。風がなだらかに吹いていて、日光がさんさんと降り注いでいる。
魔王ミカは最初は不定形の形だった。「ただある」形をしていた。人間の形を取るようになったのは人族と接触するようになってからだ。彼らは短命で性格も多少難があったが、魅力的なところもあった。
天上の太陽に向かい、
「光あれ」とつぶやく
――ミカよ。何か?
光が答える。
「何万年ぶりじゃの」
――ああ。久しぶり。忘れてしまったのかとおもったぞ、このクリエーターのことを。
正確に「クリエーター」という言葉を使った訳ではない。概念だけをやりとりしているのだ。
「忘れる物かの、この気持ち悪い存在を。妾を呪ってであろう」
――祝福して産んだと言って欲しいね。
「で、妾は人族に対してなにをすればいい。人族の乳母役を押しつけたのは分かっておる」
笑い声が聞こえてきた。クリエーターも笑うんだと魔王ミカは今更ながら思った。
――そうだ。この星の原住民を見守り育てる役は、プログラムに沿っている汝の役目だ。是非、導いてやってくれ。そして、我らの新しい仲間に加えて欲しい。
「人族は仲間内で殺し合いをしようとしている。しかし、妾はそれを望まない。そなたもそうであろう」
――まずはこの星を支配し、他の星へ足を伸ばすようにして欲しい。
「フロンティアはあるのか? この星の人族が入れる隙間があるのかということだ」
――宇宙は広大だ。まだ余裕がある。そしてマスターは絶滅してしまい、我らが代わりに播種計画を広げている。ミカもその使命を持っているのだ。我らは彼らを待っているのだ。
「人族の伝説で言うと神は死んでしまい、妾は意志を継ぐ天使の一人となるようじゃの」
――神話で言うとそうなるな。
それは苦笑した。進みすぎた文明はオカルトに見えると答える。
「人族の文明の進み具合に感心したところじゃが、それ以上の文明に使役されていたようじゃな」
――然り。導いていくと良い。その力は汝に与えてある。活用せよ。
ミカは子供扱いされてちょっと不快だったが実際にクリエーターによって創られた存在であることは承知していた。
「わかった。答えは得た。お主たちは一杯居るのか?」
――それはそのうちにしることになるだろう。
話はそれで途切れた。魔王ミカは、太陽に背を向け丘を降りていった。丘の境界の森にテルゴウスと魔馬が待っていて心配そうに見ていた。
「魔王様、お話はできましたか?」テルゴウスが聞く。
「ああ、まだ詳しいことは話せぬが、同盟の話は積極的に進めるよう言われた」
――異世界のバベルの塔の話はなしだ。
「春になって戦争が始まる前に和平交渉にはいるぞ。その前にこちらの意見をまとめないとな」
前回はお互い魔界を自分の陣営に引き入れようとしていたが、こんどは東の大陸と王国を結びつけなければならない。
勇者の笑顔が浮かんだ。「どんな種族で笑って暮らせるように」という彼の願いは今でも有効だ。
「魔王様、ラウル殿にに王国への仲介を頼むのはいかがでしょうか。もう、かなりの腕になっておりますし、適任かと」
「うむ」
まあ、今度ラウルを前の勇者のように冷遇したら今度は滅ぼして東の大陸とだけ同盟組んでもいいな。
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