32・視察
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魔王は古代に設置された転送門を使い、東の大陸に着いた。
大陸というだけあって広い。レムスに事前に地図を渡されてなかったら徒労の旅を重ねることになったであろう。軍事において地図は重要機密である。そして軍事基地の場所も記されてあった。
――まずは仮面の情報員に会うか……
魔王は鳥に変身し、首都に向かった。
――自走する『自動車』というのはあれか。
眼下で道路を走行する車を見て、魔王は微妙な気持ちになった。燃料さえあれば馬より速く疲れず走る車。これの技術が発展すれば脅威になるかもしれない。
あとで飛行機、戦艦、大砲を見るのだが、その違和感は大きくなる一方だった。
さて、仮面の男はレムスより魔王が視察に来ることを知らされ、案内する場所をいくつかピックアップしていた。宿で、地図を広げて軍事基地だけでなく、独特の文化も見せるべきだと思ったので、1週間は余裕をみておこうと考えていたところに、扉が慌ただしく叩かれた。
「扉を開けよ! 公安部の臨検である!」
どうやら怪しまれたらしい。窓も敵が待機しているだろう。うかつに出るわけにはいかない。とぼけてどこまで掴んでいるか確認するか。
仮面の男は身が危険などとは微塵も感じてなかった。任務に失敗するのが怖かっただけだ。
寝ているところをたたき起こされた風にして髪をくしゃくしゃにして、
「なんですかぁ? こんな時間に」と、とぼけて扉を開けた。
向こうには剣を持った男たちがいた。
「お前にはスパイ容疑が掛かっている。仮面を外しおとなしくせよ」
スパイ容疑? 頭にあの商人の姿が浮かんだ。消しておけば良かったかもしれない。もうどうしようもないが。目の前の頭の中を探ってみると、スパイ容疑だがこちらの素性は全く分かってないことが判明した。
男は剣を突きつけられ、仮面を外すように言う。
「いや、これ外すと大変なことになると思うんですが……」
「何が大変なんだ。ゆっくりと両手を出して外せ」
「止めた方がいいですよ」
「言うことを聞け!」
仮面の男は諦めてその仮面を外した。
暗黒の眼窩が露わになり、同時に男たち全員の魂が吸い込まれ絶命してしまった。
魔眼……それが仮面の男の能力の一つ。
倒れた男たちを踏み越えて廊下に出ると、仮面だった男は、東の大陸で手に入れたサングラスを掛けた。
――これなら多少は目立たないだろう。愛着のあった仮面は捨てるのに惜しく、荷物の中に入れた。
無人のフロントを通り過ぎ外へ出る。男たちの乗ってきた車が宿の前に止まっていた。
サングラスの男は別の能力「眠り」を発動していた。だれも、彼が宿を脱出したと気づかなかった。
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