31・技と使い魔
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「クメラ様、魔王様は本日はお休みですか?」
ラウルは剣術師範のクメラに問う。いつも3人で鍛錬しているのに、今日に限って魔王ミカ様の姿が見えない。
「魔王様は東の大陸に見物に行ったと聞いている。数日中に戻るだろう」
まあ、少々気まぐれなのは長年トップに居るせいか。クメラは、
「魔王様は長年、退屈していて最近面白そうなことが次々と起きているので居ても立っても居られないのだろう」と、答えた。
「それは良きこと……ですかね?」
「まあな。では型を練習するか」
「はい」
型と言っても魔術が混じっていて、王国の武術とは大層違っている。
片理の型その一。時間を止めてその中で切り裂き相手を倒す。時間を止めると言うが、感覚時間を最小に、反応時間を最大にする剣術である。
実は人間でも訓練すれば、極限まで感覚の時間を短く出来る。反比例して打ち込む時間を短縮する。これを無意識ではなく意識でやる。当然、難しいがラウルはある程度のレベルまで達していた。
「弓や銃というものを使う戦場で役に立つかと疑問に思うかもしれん。だが、矢を放つ瞬間、引き金を引く瞬間、そしてどこに向かっているのが手に取るように分かって避けられるようになる」クメラの言である。
さらには、飛んでくる矢や弾を切ることもできるという。
「銃に対したことはあるのですか?」ラウルは不思議に思った。
「イメージ球で見ただけじゃが、初速を見たところ対処できると判じたよ」
「なるほど」
「ところで、お主が魔王様から賜った使い魔だが名前とか付けたか?」
「いえ、まだ……」羽のある猫はそっぽ向いて毛繕いしている。
実は考えていた。伝説の猫「タロー」の名を付けようかと。ただ、笑われるのではないかと躊躇していたのだ。
タローはオレンジの猫で、王国の年代記にも出てくる賢い猫だ。
「実は伝説の猫にあやかって『タロー』と付けようかと」
「その『タロー』というのは、空を飛び炎を吐くのか?」
「は? そんなことは有りませんが、この使い魔はそんなことするんですか?」
「なんだお前、魔王様から賜っておいてそんなことも知らんのか? そもそも契約しているのか?」
「いえ、契約してません」そんな覚えはラウルにはなかった。
「私が結んでも良いが、魔王様は分かってると思っておられたのだろう」
「ど、どうすれば?」契約なんて魔界の習慣は分からない。
「使い魔の額に手を当て、『お前の名はタロー。我に従え』と言うだけだ。やってみろ」
「はい」
その通り、おずおずと指先を猫の額に当ててその通り言うと、パチッと光って、猫が「承りました」と答えた。
その様子を見ていたクメラは、
「ああ、こいつ変身できるぞ」と言った。
「なんにですか」ラウルは聞いた。
「それは知らん。決まった姿でもないかもしれない。楽しみにしておけ」
魔王様から頂いた眷属は結構とんでもない魔物みたいだ。




