30・工作
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魔王はレムスより遠隔通信で報告を受けていた。
――東の大陸は戦力はどれくらいじゃ?
――結構な戦力かと。王国だけだと一捻りでしょう。
――千年前、こちらの軍勢が少なかったときも、負けかけていたからの。勇者が居なかったら王国は魔界の属国だったわ。軍事レベルとしてはいかに。
――東大陸を平定したくらいですから。文化レベルもかなりのものです。今回苦戦しているのは間の海と、魔界の援助です。
――この前使者が来て、一緒に王国を攻めようとか言っていたぞ。断ったが。王国内で商売している魔族もいるのに。
――文化が進んでいる東の大陸と交易すればいいかと。
――いや、妾は勇者との約束を守りたいのじゃ。
――ならば、我は東の大陸を混乱に落としましょう。
魔王はレムスにどうするか聞いたところ、「すべては情報だ」という回答が返ってきた。かの国には新聞社がいくつもあり、買収し圧力をかけ、反政府運動の機運を高めるとの話。
――なかなか見事な働きじゃの、レムス。テルゴウスが高く買ってるだけある。
――は、テルゴウス様が? 諜報活動しているうちに自然に知ったことでして、そんな大層なことでは。
――いや、妾も見当が付かん方法じゃ。お主が我が子で良かった。
――いえいえ。東の大陸ですが、革命起こして内部崩壊させるつもりです。
――すべて終わったら、テルゴウスの言うとおり将軍として取り立てるから捕まるなよ。――はっ、四天王が五天王になるわけですね。はは……
――じゃ、期待しておるぞ。
通信終了。王国にも人族にも情けはなかったが、勇者との約束だけは死守するつもりだった魔王ミカであった。
文化レベルが高い? 魔法で大体のことが出来てしまう魔族にとって魅力はあんまりない。魅力を感じるとすれば王国の方だろう。
もしかしたら、王国は折れて敵対してくるかもしれんな。と、魔王は思った。人族で信用できるのは勇者だけだったし。
レムスの工作で内部崩壊するのが早いか、それとも王国を征服するのが早いかどちらだろう。
魔王ミカは興味が沸いてきたので、ちょっと東の大陸まで見物に行ってくることにした。
「テルゴウス!」
「魔王様、何か?」
「ちょっと東の大陸を見に行ってくる」そう、言って影武者を用意した。
「お止めはしませんが、ご安全に」
渡り鳥の姿となって天空へと舞い上がっていった。
――魔王様は言い出したら聞かないからな……
宰相テルゴウスは見送りながらため息をついた。




