3・騎士と魔王
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大使が引き下がったのち、謁見室から別室へと移った魔王と騎士。
魔王のジロジロ見る目に騎士は言った。
「何か変ですか?」
「いや、妾の知ってる勇者とそっくりじゃ。昔を色々思い出した」
つい、と騎士から視線を逸らす魔王。
「魔王さまと勇者さまは剣を交えたあと、和解なされたと聞きましたが」
魔王は召使いに酒を持ってくるように命ずると、
「いや、あれは妾が負けたのじゃ。勇者は剣は超一流だったが、それ以上に戦わずして勝つコツを心得ていた。戦って負けた魔族の中に傷つけられた者は一人もおらん」
「にわかに信じられないことですが、魔王さまはその目で見ておられるのですから、信じないことにはできませんね」
魔王は注がれた酒を飲みながら遠い目をした。ああ、愛しい勇者よ……
「そなたはそこまで行っておらぬのか? というか伝承されてないのか? あの剣を」
「いえいえ、まだ若輩者でして。秘伝は勇者さまで途切れたようです」
「そうか。まあ飲め。お主も悟れるかも知れぬ」
騎士に酒を注いで、やはり姿形はそっくりだが違うのだなと悲しくなった。
「魔王さまは勇者さまがどのような剣だったかご存じで?」
「戦ったときは訳も分からず負けてしまったが、からくりは後で教えてもらった」
――閨の中でな
魔王は、ちょっと赤くなって胸の内で呟いた。
「この酒、ちょっと強くないか?」
あわてて取り繕う。魔王さまは睦言に関しては純真なのだ。
騎士は真剣な顔になり、魔王に懇願した。
「魔王さま、勇者の剣を教えてください」
「え!」
「お嫌でしょうか? 魔王さまに剣を向けることは決してないと誓約します」
いやいやいや、勇者の剣の体系は人格から鍛え直すことを意味する。この青年にその資質はあるだろうか? 収得に100年かかるかも知れない。
その旨伝えると、騎士は、
「子供の頃から伝説の勇者さまに憧れてました。それが叶うなら一生を捧げましょう」
――まあ、妾と同じ不老不死にしちゃえば問題ないんだけどね。
「人生を左右することだ、すぐに決断せず、しばらく沈思せよ」
「わかりました」
「ところで、勇者について家族の間で何か伝わってないか?」
勇者の話をもっと聞きたい。そう、魔王は思った。