29・交渉団
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雪の降る季節となった。足下が悪い季節に戦おうとする馬鹿はいない。戦争は休戦状態になっていた。
水面下では、秘密裏の交渉が始まっていた。東の大陸からの使者が魔界を訪れ、王国を滅ぼさないか? という提案をしてきた。
――王国は信用できるのでしょうか? 歴史を見ると仲間を平気で裏切ってます。魔界も裏切られるかもしれません。我ら東の大陸と王国が手を握って魔界を攻めてきたらどうしますか?
半ば恫喝のような物言いだ。謁見した魔王ミカは呆れて言った。
「千年前、妾は王国に負けたわけではない。勇者に負けたのじゃ。そして友好条約を結んだ。それだけのことじゃ。人族など妾たちの相手ではない。実際、そちらの自慢の船はクラーケンやシー・サーペントに沈められておるしのう」
魔王はあざ笑った。王国のレベルで話されては困る。戦力だったら魔界の方が上であることをはっきりさせる必要があった。
「大体、忠誠心に欠ける性質を持っているのは、王国も東の大陸も同じではないか。人族は蟻と同じで数は多いが寿命も力もたいしたことないとみているが違うか?」
使者は言葉に詰まった。実際、国内でも反政府主義者が反戦を叫び始めているからだ。それは、魔界のレムスによる暗躍による分断工作なのだが。
――先進の技術を持つ我々と組んだ方が良いと思いますよ。
「もちろん、『そちらの技術』は魅力的だ。力で奪い取っても良いほどな。だが、今はそれをするほど退屈しておらん」
使者は話をしても無駄だと知った。王国との同盟を破棄するほどの魅力がないのが分かった。進んだ科学技術の話をしてみたが、魔王にはピンとこないものばかりだった。というか、レムスの諜報活動によりほぼ把握していたのだ。
その一方で、王国にも交渉団が入っていた。
――一緒に魔界を攻めませんか?
王は渋い顔をした。真実は伝承として王家に伝わっている。勝ったのは勇者であって王国ではない。今度出てきた勇者は伝説の勇者ほどの力は微塵もなく、民を安心させるさせるためのはりぼてである。先ほどの戦いで東軍を蹂躙したのは魔界のドラゴン一匹である。そんなのを相手に勝てようとは思えなかった。
そもそも、勇者が出なければ魔界と戦えるわけないのだ。そして、東軍に屈すれば、王国の兵が先兵として魔界に送り込まれる。王族の扱いも不明。そして、現在は魔界と同盟を結んで平和にやっている。現状を変える必要がどこにある。
「悪いが断る。詳細は後ほど文書で伝える」
王は一言そう言って、謁見を打ち切った。
結局両方とも交渉は決裂したのだった。
その頃、東の大陸では反戦運動が盛り上がりを見せ始めてきた。
レムスの活動を評価している宰相テルゴウスは、時期を見計らってレムスを将軍に格上げしようかと検討しはじめるのであった。