28・初戦
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戦争が始まった。租界地に続々と集結していた東軍が侵攻し始めたのだ。
王国軍は銃と大砲の前にじりじりと後退していった。銃にようやく対抗できるのがボウガン、弓、投石で剣は役に立たない。騎馬隊で蹴散らそうと突っ込んでいった将は堅牢な車に傷を付けてもたいしたダメージは与えられなかった。
そこへ、飛行機が爆弾を王国陣地に投下していく。同じ空を飛ぶ竜騎兵は偵察程度しか役に立たないし、そもそも王都防衛の任務のため前線にでることはなかった。
戦力差は歴然だった。魔界の存在を除けば。
魔界から一匹のドラゴンが飛来してきた。
魔王ミカが試しに戦ってこいという命令を下したのだ。
飛行機は逃げ出した。かなう相手ではない。ドラゴンは地上に降りると、炎で敵前線を焼き払った。
焼死者多数。火縄銃や大砲は玉の装填が遅すぎて、敏捷に動くドラゴンに当てられない。たまに当たっても固い鱗に弾かれてしまうのであった。
敵大隊でもドラゴンの敵ではなかった。東軍は渋々戦略的撤退を始めた。逃げる兵をこんがり焼き払って痛い目を合わせておこうというのがテルゴウスの戦略だった。そう対抗策は立てられまい。
その姿を魔王以下四天王とラウルは魔法球でみていた。東軍はドラゴンに歯が立たないのを確認したところ、
「なんじゃ、あの体たらくで魔王軍に勝てると思うたか」魔王ミカは言う。
「王国側はかなりやられてましたな。勇者が居ないとこれか」四天王の西、ルーンが冷たく言い放つ。千年前はこれに負けたのかと言いたげに。
「まあ、あのときは勇者は神の使いかと思うレベルで、王国に負けたわけではないからな」四天王の南ガメールがつまらなそうに言う。
「当たり前じゃ、妾は勇者に屈したのであって王国に屈したわけではないわ」
魔王ミカはさも当然とばかりに首を振った。
ラウルは思った。さて、東軍はどういう対策を取ってくるかと。相手としても馬鹿ではない。正面からぶつかって勝てる相手ではないのがわかったのだ。
「2つ対策が思いつきましたぞ。
一つは、数が少ないドラゴンを無視して、軍を細かく分けて距離を保って波状攻撃を掛ける。
もう一つはありそうですが、王国と魔界との離反工作に集中する。王国が弱いのがわかったから、後は魔族が参戦しなければ良いだけの話です」
「テルゴウス殿、それは現実味はありそうですか」ラウルが聞く。
「王国の者はもう一歩信用が置けんしの。もちろんラウルは別じゃが」
「正直、人族は仲間を平気で裏切る傾向があるからなぁ」四天王の東のスオラがつぶやいた。ラウルは否定できずに俯いた。先祖の勇者も実は毒殺されたという噂を聞いているのだ。
「まあ、東軍もなにか考えてくるじゃろうよ。魔族はドラゴンだけではないし大丈夫。王国が同盟解消したら自業自得じゃ」
――東の大陸も人族だからこっちが仲間割れの工作をかけてもいいしね。諜報員レムス、腕の見せどこじゃよ……
魔王ミカはニンマリした。




