27・フェリスの野望
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新勇者フェリスは調子に乗っていたのは否めない。一人で東の大陸を制覇してやると言い放つ一方で、魔王ごとき屁でもないと言う。
まあ腕は立つ。武道会で優勝するくらいは。だが、実戦は一対一でもなければ、弓、投石、そして今回は東の大陸は銃という物を使うという。魔族は魔法を使い、剣の間合いなど関係ない。
戦わずして勝ったと言われる前勇者からすると、かなり見劣りがする。戦争を危惧していた軍師たちはこの新勇者には全く期待してなかった。はりぼてのの人形。
それでも、戦争になったら先陣を切って突っ込ませるつもりだった。本人もその気だったし。
戦争には士気というのが大切である。厭戦気分で初めて大敗することは避けたい。シンボルとして王国としては有効利用させてもらうつもりだった。
フェリスは今回の国難を利用して成り上がるつもりだった。勝てば爵位が確実に貰える。前勇者と同じく。そしてあわよくば王位を簒奪することまで内心考えていた。
ある意味、乱世に出てくる典型的な人物なのであった。
フェリスは勇者として、お披露目会に出たとき、姫と語る機会があった。機会を見て話しかけたのだ。
「礼儀作法がわからぬ無調法者で失礼します。大輪の花のようにお美しい姫様にお会いできて光栄です」
フェリスの男女区別がつかない美貌に姫は一瞬目を奪われたが誰か別の男のことを考えている目をして、
「勇者さまはご機嫌麗しゅう。ラウルとどちらが強いですか」
ラウル? 初めて聞く名にフェリスは戸惑った。武道会には出てなかったはずだ。
「その名は初めて聞きますね。さぞや名のある剣士ですか」
自分を差し置いて、という嫌みがちょっと入ってしまうのを止められなかった。
「騎士で、今、魔王のところで乞われて修行中です。あの方は魔王のところなどから早く帰ってきて欲しいのですが」
自分と比べられるくらいの実力者らしいとフェリスは思った。嫉妬心が沸き、排除しなければと思う。王位を取るためにはこの姫と結婚するのが早道である。しかし、姫の目からラウルが一歩勝っているのが感じられる。騎士風情に劣るわけにはいかない。
「そのラウル殿は姫をどうお考えですか?」
姫は表情を曇らせた。
「いえ、私が一方的にお慕い申し上げているだけで。あ、ラウル様も勇者様の血を引いているはずですが、本当にご存じないのですか?」
――しまった、藪を突いて蛇を出してしまった。
「ああ、あのラウルですか。遠縁なので名前をおぼろげに知ってるだけです」
と、なんとかごまかす。このままだと、ボロが出そうだったので姫から離れる。
――ラウルという騎士。ライバルとなりそうだ。覚えておこう。
あるいは早めに殺しておこうと決意した。




