26・始まりの場所
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愛馬の葬儀を終えた魔王ミカは感傷的になったのか、ある日、
「ラウル、私の生まれた場所を見せよう」と言って二人で魔王城の近くの丘に登った。
丘には草が生え茂っているだけで何もなく、しかし、禁足地として周知されているとのことで魔王ミカ以外誰も来たことがないという。勇者ラウルスすら案内する機会がなかったという。
「ラウルよ。ここには今は草が生えているが、私が生まれれたときは土と岩ばかりの荒れ地だった。太陽がここを強く照らし地と空気の中から妾が生まれたのじゃ」
「ご父母はおられなかったのですか。誰が育てられたのですか」
ラウルは赤子が荒れ地で泣き叫んでいる姿を思い浮かべた。
「違うのじゃ。妾は人間でも魔族でもない。ある日、突然実態としてこの世に生まれた。そして当時は今、お主が見ている姿ではない。この姿は、魔族と人族と接触してから形作ったものじゃ」
ラウルは驚いた。ということは18歳の娘に見えるがそれは誰かのための擬態。おそらくは勇者ラウルスに好意を抱いたために変身したということか。
それを魔王ミカ様に言うと、
「ま、そんなもんじゃの」
と、あっさり言った。
それにしたって、まるで神話みたいな出生ではないか。
「失礼ですが、お歳はおいくつで?」
「覚えておらん。昔は歳を数えるという習慣もなかった。人族が年齢を数えているので、ここ千年ほど数えているだけじゃ」
もしかして、魔王は神の一種ではないかという思いが沸き起こってきた。
魔王ミカは続けた。
「妾は独りぼっちで寂しかった。それで、こうして」
と、指先を素手で切り。血を地面に滴らせた。血は、ムクムクと大きくなり異形の魔物として生まれた。
「仲間を増やした。魔族と魔物は元は妾の子じゃ」
ラウルは耳を疑った。神そのものではないかと。
「もしかして、人もですか?」
「違う。元から居て別のところから来たのが人族じゃ。そして、ラウルスは妾の孤独を埋めてくれた。そなたは、妾を神とか思ったじゃろう。そうではない。そんな妾を慰撫してくれる力をもった存在が勇者だったのじゃよ。神が居るとすれば、彼こそが神の化身じゃ」
「私はラウルス様を神だとか思ったことはありませんが……」
王国でもそんな話は聞いたことがない。でなければ、勇者を冷遇するなんてとんでもないことだ。
「ラウルスは妾を救ってくれたのじゃ。これは彼への信仰かもしれんな」
「しかし、なぜ、私にその話を?」
「ラウルスには話をする前に旅立ってしまった。それに本人に向かってこっぱずしくて言えるか」
ああ、だから勇者への愛が溢れているのか。そして、似ている私を優遇するのもその理由か、とラウルは腹落ちした。
「ここは、魔族や魔物を作った地じゃ。いつもここで作った。彼らにしてみれば聖地じゃ」
魔王ミカは話を戻した。
「帰るか。新しい部下が出来たな。こいつはおまえの使い魔にしろ」
といって、さっき血から出来た魔物を差し出した。羽のある小さな猫。
ラウルはそれを肩にのせると、二人して城の方へ向かった。




