25・手紙
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
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――父上様、母上様お元気でしょうか? 私、ラウルが魔王様の下に来て半年が経ちました。魔王様はミカ呼びを許していただき大変よくさせていただいております。
私は以前から勇者ラウルス様と似てると言われてましたが、生前のラウルス様を知る魔王ミカ様も驚くほど似ているとのことです。ただ、剣技はまだまだで日々魔王ミカ様より手ほどきを受けているところです。
意外だったのは魔族たちが皆、穏やかで親切にしてくれることです。私が勇者の係累で魔王ミカ様のお気に入りのせいなのかなと当初思っておりましたが、魔族のものたちは魔物はもとより虫や草花を愛でる習慣があり、千年前の大戦の話とたいそう違っていると感じました。
実は魔王ミカ様の愛魔馬がいて、年齢で引退後、ミカ様は毎日通っておられてました。その魔馬がこのほど、ついに寿命を迎え、天空へと登っていきました。ミカ様を初め多くの配下たちがその死を悼み、活躍を褒め称え盛大に葬儀がなされました。ミカ様の愛馬だからという訳ではないようです。それぞれ自らの業を全うしたものは尊敬とともに語り継がれるようです。
記録庫に連れて行かれたのですが、建国以来の魔族の功績が残っているそうです。
祖先たちへの礼は我が国にもありますが、これほどとは。
私はこの魔界に来るまで母国の多くのものと同じく、文化レベルの劣る蛮族だと魔族を思ってました。しかし、宰相テルゴウス様が哲学者でもあると知り、その認識は間違っていると痛感しました。
そして、天空へ登っていったものたちに感謝する祭りがもうすぐあります。私もそれに参加します。なんと、勇者ラウルス様も列聖されているとのことです。私は縁者として参加するよう魔王ミカ様より命じられました。
王国では魔族に対して偏見を持つものが少なくありません。ただその強大な力を恐れ、勇者に屈服したという話に縋り付いているように私は思えます。千年前の戦争は、勇者一人によって終わらせたという伝説はどうやら本当のようです。決して王国が勝ったわけではない。
前述したように、今、魔王ミカ様より剣技の訓練を受けています。成績の良かった田舎者が都会に出てそのレベルの違いに驚くのと同じことが起きています。ここ半年で、王国の剣士を超える力を得たと自負しております。
魔王ミカ様は勇者の奥義を私に伝授して頂けるとのことです。聞いた話だと「戦わずして勝つ」方法だそうです。本当にそんな剣技があるのか半信半疑ですが、魔王ミカ様の剣技は素晴らしいものがあり勉強になってます。
あと、ミカ様は見た目18歳くらいの女の子でお美しい姿です。まだ勇者様を懸想されているようですが、父上や母上にお会いしてみたいとも仰っておりました。
そのときはご紹介しますので何年かお待ちいただくよう申し上げます。
それでは、父上、母上ともにお体に気をつけてお過ごしください。
ラウル
現在、50話目を書いたところです。ストックがあるので、当分続きます。