23・鍛錬その2
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今日も魔王ミカとラウルは鍛錬で裏庭に来ていた。
「今日は剣で衝撃波を出す方法について教えよう。使い方によっては遠方の堅い物を切り裂くことができる」
魔王ミカは事もなげに言った。そんなことができるとは前に飛行機を落としたのを見てないと信じられない話だった。やはり魔王は凄い。彼女を屈服させた勇者も凄い。
「あの岩」魔王ミカは昨日はなかった大岩を指した。昨晩の内に置いたのだろう。
「あれに向かってここから切り裂くつもりで振り切る」
「?」
「ババッという感じじゃ。するとスカッと岩が切れる」
魔王ミカは論理的に説明できないみたいだ。感覚的に説明されてもよく分からない。
「ミカ様はどうやって体得されたのですか?」
「剣があそこまで伸びていくつもりで、ひたすら振った」
「で、どれくらい掛かりましたか?」
「1ヶ月半という感じかな」
それだけ短期間で取得するとは魔王になるだけはある。
「最初は面白くて、バサバサ切っていたんだがすぐ退屈しての。生き物を切りたくなってきて……」
ちょっと怖いことを言い出す魔王ミカ。
「慣れると素手で野菜が千切りできるようになるぞ。ラウルスに手料理振る舞ったら喜ばれて嬉しかった……」
生き物じゃなくてなまものだったらしい。ここでも惚気話をする魔王ミカ。
「ちょっと振ってみ。これも慣れじゃ」
「はい」ラウルは遠方の大岩めがけて剣を振った。
何事も起こらない。
「ああそうか、お主、魔力が使えなかったな」
「やはり、関係ありますか」
「よく考えたら風魔法を無意識に使っておったわ。すまん。ちょっと剣を貸せ。風魔法をその剣に付与するわ」
魔王ミカはラウルから剣を受け取ると、手をかざした。剣は一瞬青色に輝くと元に戻った。
「これなら大丈夫」
「では」
ラウルは大岩に向かって剣を振った。竜巻が剣から発するような感覚が起きて、大岩は真っ二つに割れた。
「ほう、一回教えただけでそれか? お主才能あるの。というか、妾もそれに気づいておれば1ヶ月半も掛からなかったのではないかの」
「いえいえ、ミカ様のお陰ですよ」
「よし、練習するがよい」
「野菜を切るわけにはいきませんががんばります」
そう言うと魔王ミカは顔を赤くして、
「バカ」と言った。




