22・大公の苦悩
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王国は新しい勇者を持て余していた。前の大戦は「退屈した魔王が攻め込んできた」ので、魔王を倒せば全て収まった。そして卓越した力を持つ勇者が一人で魔王と話を付けて和平を結んできたのだ。
今回はそんな簡単な話ではない。資源を求めて攻め入ろうとしてくる国を相手に戦うのに、武芸に多少優れているだけの「勇者」がどれだけ役に立つのか。そもそも中枢部を皆殺しにして軍の動きが止まるのか。
そして、剣捌きだけしか能の無い「新しい勇者」は、飛行機や鉄の車に勝てるのかという疑問があった。
元老院では日々議論があったが、実績の無い勇者は蚊帳の外だった。多くの議員は魔界に助力を求めるべしという意見を支持した。反対派は、却って魔界側に侵略されると反論した。
大公は苦悩した。
――主体的に戦わねば勝っても負けても我が国は滅びてしまうのでははないか……
そうはいっても、科学技術力では東の国に遙かに劣る。魔族の持つ魔力で勝てるかもしれないというレベルの戦いである。
――交渉して、多少の権利は譲ってそれで勘弁して貰うか。
大公は王に東の国への使節団を出すことを具申することにした。勇者は使い所がないが、まあ、護衛として連れて行く。その前に元老院に講和派の議員を増やすつもりだった。大半が主戦派なので、説得に大変そうだが。千年の安楽が、自分たちが負けるという意識が全く無くしているのだ。
そんなことをつらつら考えてながら王の間への廊下を歩いていると、姫様とばったり会った。
「大公殿、ラウル様はいつお戻りになられるのですか」
大公は答えに窮した。騎士ラウルが魔王ミカに気に入られて数年は戻ってこないであろう事は暗黙の了解だったからだ。あるいは一生。
「なにぶん、魔王のご機嫌次第でして……」
「ラウル様は魔王と妾のどちらを取るおつもりでしょうか?」
「姫様。ラウルは格下の相手でございます。もっと位の高いものを相手になさいませ」
「魔王はそれでもラウル様を気に入っておられるのでしょう? 私が選んだ相手を腐すのはおやめください」
姫はムッとして言い返した。
「今は魔王に味方していただけなければなりません。そのためにラウルを魔界に送り込んだのです」
「ああ、ラウル様は妾のことをどう思っておられるのでしょうか……」
――そもそも二人はそんなに親しかったか?
大公は晩餐会などを思い返したがそんな記憶はなかった。そうなら、そもそも娘に甘い王がラウルを魔界に派遣することはありえない。
いつから姫様はラウルに思慕の念を抱くようになったのだろうか。そして、ラウルの方はどう思っているのか。騎士として姫様に剣を捧げたとか聞いてないのである。
大公は、内心頭を抱えつつ、表向きは、
「剣の修行と聞いてますので、強くなって戻ってくるでしょう。それまでお待ちください」
と、にこやかに答えた。