20・ラウルの話
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騎士ラウルは思い出せない悪夢を見て目が覚めた。記憶の端にはなにも残ってない。ただ、ちょっと落ち込んでいた。魔王ミカ様から好意を抱かれ、強力な魔法の品々を与えられた。しかし、それを十分に生かし切れてない。魔王の剣の一振りで飛行機を撃墜してしまったを見て力量の差を思い知らされた。
そして、王からの密命である、魔王ミカの弱点を探るということにも難儀していた。あの勇者と恋仲であったと言うだけあって弱点は見当たらない。これだけの存在は王国にも居ないのではないか。戦闘能力、部下の掌握力、弱い部分かもと思った治世も宰相が見事にサポートしている。魔界は安定していて大戦後は繁栄している。
使役獣はペットであって、奴隷ではない。下働きの男を捜しに父と王国の奴隷市場に行ったときのことを思いだした。手癖の悪い犯罪者は扱わないというが、借金の形にとられたという痩せ細った少女が痛ましくてすぐに出てきてしまった。
魔界に勝ったのは勇者であって、王国ではない。実際に勝ったのは魔界の方だという出入りの商人達から話は本当かもしれないとラウルは思い始めた。
――しかし、東の大陸との戦争となると多くの者が死ぬ。残された者達も陵辱されるか奴隷に落とされるか、それはまだマシで資源だけが欲しかった場合、皆殺しだ。家族をそんな目に遭わせるわけにはいかない。
王から「家族のために魔界に行ってこい」と言われて、暗に家族を人質に取られていると言うことを錐のように言い含められた。
なんとか使命を果たすしかあるまい。
ベッドから起き出すと、気配に気づいた側女がやってきて、
「おはようございます。すぐ洗面水を持ってきますね」
と言って、お湯を入れた盥を持ってきた。王国だと冷水だが、魔界だと温水がふんだんに使える。魔法が発達しているせいだ。
顔を洗うと、すぐさまタオルが渡される。高位の貴族みたいな扱い。
「朝食の準備ができております。ご準備ができたらおいでください」
ラウルは部屋を退出する側女に「ありがとう」と言った後、排尿と着替えを済ませる。
そして、今日の計画を立てる。魔王様に東の大陸の情報を聞くことにする。どうやら王国側とは段違いに情報収集力が高いと知ったので、自分からも王国に情報を流さないと。
魔界に招聘されたと時に与えられた声を繋げる指輪を無意識に右手で回しながら食堂へ降りていった。




