19・戦闘訓練
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さて、魔王城に戻る。ラウルに勇者の秘伝を伝えることはまだできなかったが、魔法の品々を装備させた。透明マントに熱源探知ゴーグル。氷魔法の腕輪。
魔王ミカは言った。
「敵は空を飛ぶ機械を使っている。熱源探知ゴーグルは昼間は使えないが、夜襲の時には役に立つだろう。今日は竜を飛ばすからその腕輪で狙い撃て」
「傷つけたり、殺したりしないのですか?」
「大丈夫、竜はその腕輪の威力では撃墜とかできんわ。飛行機は脆そうだったからたぶん大丈夫。間諜によれば木造だからの」
なるほど、騎士ラウルは納得した。
魔王は側の竜を一匹呼び寄せると的になれと命じた。飛び立って十分離れたところで、狙いをつけて氷の矢をラウルは飛ばす。
全く当たってないようだ。嫌がっている風にも見えないので、命中してないのだろう。
「ラウル、お主、弓の心得は?」
「有りますが、これは勝手が違いますね」
矢は落下していくので遠距離だとそれを計算して放つ。だが、氷の矢はまっすぐ飛んでいく。ラウルは目を細めて狙いを定めていたが全く当たらないことに苛立った。
「これは距離が遠すぎる……」
「そうか、せいぜい中距離までじゃな」
魔王は竜を呼び戻した。
竜語で何か話したあと、
「全く当たらなかったそうじゃ。まあ練習は続けた方が良かろう。あと、空中からはそのマントのお陰でどこから撃っているのか全然分からなかったそうじゃ」
「そうですか。距離を伸ばして、遠距離でも当たるようにします」
――そういえば、宝物庫に自動追尾の槍もあったが一品ものだったな
魔王は思い出した。あの槍は使い所が難しい。必ず当たる逸品だが、回収は自力でやらないといけないのだ。あれが沢山有ればいいのだが、一本しかない。魔道士に今から作らせるか。日産三本らしいが。飛行機は撃墜できても、軍艦や大量の車を貫通することは難しいかもしれない。
と、側近から飛行機がこちらに向かいつつあるとの言葉。
魔王ミカはニヤリと笑った。カモが来た。早速、ラウルと竜に伝える。
しばし待っていると小さな飛行機が二機飛んでくるのが見えた。
魔王は愛剣を取り出すと、無造作に振った。途端に衝撃波が飛行機を襲い墜落していく。スタンバイしていた竜が飛び立ち一機ずつ、炎を吐きかけ二機とも撃墜した。
「さすが、魔王さま」ラウルは言った。
「アホだな。我が国はそんなに簡単に侵したりできんわ」
数日後、王国、魔界ともに偵察機が戻ってこないので、最初は楽観視して居た東の大陸の軍は大きく戦略を再検討することになった。