16・王の想い
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王は焦っていた。王国は前の大戦後、形は王国を維持しているが、現実は5つの太守の領地に分かれ王家は形ばかりの名で維持されてきた。各領地は互いにいがみ合い、互いに侵犯しただの言い合って小競り合いをしている。
王がその都度お互いの体面を取り繕ってなんとか和解に持ち込んでいる。飢饉が発生すれば流民が生まれ互いに戦争が繰り返される。魔界との戦争どころか、魔界から供給される物資でなんとか生き延びてきたようなものだ。
それが、今、東の大陸からちょっかいが掛けられて人心不安の状態である。氷河期が来て気温が下がり作物の出来が悪くなったためだ。
東の大陸の国々は纏まり、我が国に攻め入ろうとしている。
それが心ならずも魔界に応援を求めた理由だ。貴種たる人族の代表の勇者が征服した連中だが、勝ったのは勇者だけで、勇者は和平を求め王国はそれを受け入れた。魔族は長命で圧倒的に強かったのだ。勇者が現れなかったら王国は壊滅していただろう。
「陛下、東の大陸を探らせていた商人ですが、魔王さまから連絡があり東の大陸と通じているとのことです」
「それは本当か?」
「心が読める魔人が会って分かったそうです」
打つ手打つ手、全て後手後手に回ってしまう。王は悲しくなった。
「切るか……」
「魔王さまが言うには、知らんぷりして泳がせておけば良いとご進言されております。別に間諜を出せばいいと。商人には騙されて貰いなさいとのことです」
「うむ、そうじゃな」
魔王ミカの顔を見たことがないが、聡明そうだ。宰相も評判が高い。その人材が我が国にもあれば……
「あと、魔王さまから騎士ラウルの貸し出しを感謝するとの伝言を承っております」
「感謝する、か……」
勇者ラウルスとそっくりな若者を送ったのはちょっとだけ威嚇の意味があった。協力しないとどうなるか分かっているかと。
それは通じなかったようだ。それどころか喜ばれてしまったようだ。勇者と魔王は恋仲だったという伝説は本当だったようだ。
まあよい、同盟に魔界を引き入れることができたのは良かった。
王は、少しだけほっとした。
「太守たちを国都にあつめるように書簡を出せ。今は互いに争っている時期ではない。纏まって対処するのだ」
千年前の戦争より大きくならなければいいが、と王は思った。