15・ラウルの想い
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騎士ラウルはちょっと悩んでいた。魔王ミカとの鍛錬はぐんぐん力が付いていくのがわかり、尊敬する勇者ラウルスの話もしたい。待遇はまるで、貴賓扱いで、悪くない。
でも……ミカ様は自分の事をどう思っているのだろうかと。
姿がそっくりだから特別扱いされているだけで、ラウル自身のことを見ているのか疑わしい。確かに母国では絵とまったく同じであるとは言われたが、勇者のような剣の天才ではなかったし、むしろ比べられて迷惑だったと記憶している。
我は我。勇者でもないし、魔族と戦っている時代でもない。
もちろん、王国にもミカ様にも期待に応えられればそれに越したことはない。
魔王ミカは外見は美少女でありながら、負けたのは勇者だけで勇者が亡くなってからは勝てる者がいない状態である。腐敗している王国と比べて、魔界は優秀な人材に恵まれているようで交易はどんどん進み、平和は維持されている。
さて、なぜ魔王ミカは王国に侵攻しようとしたのだろうか?
修練の時に聞いたことがある。
――退屈だったから
が回答だった。そのために何万の人が死んだのに。
――当時、お互いに誤解が酷くての。王国は、魔族滅すべしと唱える者も多く、魔界も人族は狂信者の集まりと思っていて、小競り合いをしていた。で、鬱陶しかった妾はすっきりすべく侵攻を始めたのじゃ。
今はお互い共存し合っていて、魔族の商会が王国内にあって商売をしているけど、そんなことがあったのか。
――お互いの誤解を解いたのが勇者だったのだよ。両者、守りたいものがあって、それを尊重しあうように言ったのだ。
強さとは、太刀筋や勇気だけではなく、敵を味方とし仲良くなることと魔王ミカはラウルに言った。
ラウルは剣を闇雲に振り回していた自分を恥じた。真の強さとは何か、考え始めた。そしてそれを論じた本を全く読んでないことに気がついた。
魔王城に図書館があるか聞いたら、テルゴウスに案内され、この本を読むと良いと10数冊の本を渡された。なんと王国語で書かれた本だ。王国は魔界を未だに未開の地として魔界の本が流通することはないのに。
――あの、魔界にも哲学者はいるのですか?
テルゴウスに聞く。
――はは、私もその一人だと自負しているつもりだがね。暇なときは思索したりするよ。
神の実在を論じたりするのかと聞く。
――汎神論は昔有ったが廃れてしまった。みんな寿命が長いので、実存を考えるのは流行しなかったしな。ただ、みんな共通する悩みがある。
それはなんですか?
――退屈なんですよ、生きているのが。私も昔、自殺を考えた頃があります。火山に身を投げて死のうかと。
人族のラウルはなんと言って良いか分からなかった。