表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/89

14・鍛錬

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

 魔界でも雨が降る。昨晩から降り出した雨は今日一日降ると予想されていた。天気予報者は魔界にも居て先の大戦でも大いに活躍した。予報だけでなく、雷雨を引き寄せる魔物を幾頭か用意し、戦いを有利に進めていたのだ。


 こういう風に魔王軍はシステム化されていて、王国との戦いは有利に進んでいたのだが、たった一人の勇者に負けてしまったのである。


 まあ、講和は魔王軍に有利に進み、不可侵条約と友好条約を結ぶことで収まった。テルゴウスが宰相になる前の話。魔王ミカと勇者ラウルスが話し合って決めたことだ。両国に繁栄をもたらしたいとの希望で。


 魔王は午後の執務を終えると伸びをして、首をコキコキ鳴らした。

「ふう、今日の分はこれで終わりじゃ」


 テルゴウスは書類を纏めると、側女を呼んだ。お茶の時間だ。

「魔王さまは愚痴は言わなくなりましたな」


「ふむ、まあ、ラウルと手合わせが待っていると思うと我慢できる」

「さようで。力量はどれくらいだとご判断を」

「基本はできておる。ただ、筋肉で剣を振り回そうとする習慣が残っている。奴は人じゃ。人は骨を動かして動く。それを十分に理解しておらん」

「剣は私はよく分からないのですが、そうなんですか?」

「勇者は無駄な筋肉など付いておらんかったわ。こう、すらっとして、妾を抱きしめるときは……」

 魔王は何を思いだしたのか赤面した。


「いや、あー、だから筋肉に頼るような者は剣士として未熟者だわ」

と、言った。


「下手に筋肉が動くと、相手に気配がすぐ分かってしまう。そこをやられるのじゃ」

 勇者はそれが十分分かっていて、それでいて、戦わずに勝つという事をやっていた。あの軽薄な魔剣ガウスを使わず、只の木刀を携えていたとしても魔王に勝っていただろう。


――まさに、天と魔王に愛された天才だったな……

 魔王は懐かしく思い出す。


 側女のネミラがお茶を持って入ってきた。魔界にだけ生えるお茶の葉だ。王国でも愛飲されているとのこと。昔は魔獣が居る山の中に入って探すのが大変だったと聞くが、今は王国も魔界と友好関係にあるので、採取も簡単になった。


 香り高いお茶を飲みながら、魔王は外の雨を見やる。先の大戦で、雨の中突進して王国の騎士団を蹴散らしていたことを思い出す。


 あれからすると、平和に、退屈になったものだ。だが、戦はお互いの民を疲弊させる。目先の名誉よりも、子供達の平穏を祈る声も無視できる物ではなかった。


 魔王ミカは、実は結構優しくて愛情深い性格なのである。

 それが勇者から愛された理由の一つでもある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ