13・スパイ
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さて、その間東大陸に放っていた隠密は二者。王国の手の者と魔界の手の者に別れている。
王国は、元々東大陸の商人を雇った者で、実は二重スパイ。普段東大陸なぞ全く気にしてなかったので、慌てて都合した結果がこれである。定期的にいかに東大陸がたいしたことないか連絡していたので王国は全く気づいてなかったし、危機感を募らせるばかりであった。
魔界は諜報に長けた仮面の男で、心が読める種族を送り込んでいた。そしてイメージ球で報告。
ある日、二人は出会うことになった。
「仮面の方ですか……実は有名人ですかな」商人は言った。ただ者では無さそうだ。
「いえいえ、若気の至りで顔中にタトゥー入れすぎて後悔しているんですよ。みんな怖がるので仮面被った方がまだ安心できるようで」
仮面の男は商人がスパイであることを見破った。
警戒されると同時に、自分がスパイであることを考えてしまったのだ。男は知らんぷりして、この商人を利用しようと判断した。それにしても王国は抜けている。既に諜報戦で負けて居るではないか。
「それは取り返しの付かないことをしてしまいましたな」
商人は警戒しながらやや安堵した。
「ところで戦争を始めようとしているという噂がありますが、どうお考えですか」
仮面の男は不躾に聞いた。商人は、
「いやいや、商売のきっかけになれば私としては何の問題もありません」
そう、とぼけたが、同時に心の中に機密情報がピカリと浮かんできた。
――半年後に本格的に全面戦争に入る、か。
軍事については、士官が出入りする店を回ってみることにして、商人からはそのコウモリ振りを伺おうと思った。
――王国には当分ないと伝えて、戦力も微々たる物と伝えるか。
まあ、こういう人材を使わざるを得ない王国の没落ぶりも笑止だが、これを王国に伝えるべきかは魔王さまとテルゴウスさまに任せた方が良さそうだ。
商人は仮面から見える目にぞくりとした。
「あの、お仕事はなんですか?」
商人は聞いた。
「旅人ですよ」
仮面の下で薄く笑ったと思える口調で彼は答えた。
「またどこかでお会いしましょう」
「そうですね」
――商人の本心は、『警戒』しているだな。
「私たち、前に会ったことありますかね」
「いえ、記憶にないですね」
そう、二人が会うのは今回が初めてだった。