12・魔剣ガウス
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勇者の持ってた魔剣ガウスは意志を持った話す剣だ。切っ先は時間を切り裂き、山を二つに割る。南の峻険な山の一つに割れ目があるのは勇者が試し切りをしたときの名残だ。
勇者が魔剣ガウスをどこで手に入れたのか定かではなかった。魔王にとっては只の魔剣の一つであり興味はそれほど無かったのだ。魔剣ガウスでようやくなんとか魔王と互角に戦えるかな? という程度。それは魔剣ガウス自身認めている。
それが剣を交える前に、魔王が敗北を認めたのは勇者の剣法そのものによるものだった。魔剣ガウスを突きつけなくても、柳の小枝一本で勇者は勝っていただろうと、後で魔王は思った。
「ラウル、勇者の剣を見せよう」
魔王は奥に置いてある魔剣ガウスを手に取った。
――え、何、何? ラウルスが迎えに来た? いや、違うな。見た目は同じだけど、フォースが違うわ。なんだビックリさせるなよー、魔王ミカ。で、その人だれ?
「相変わらず軽いの? 魔剣ガウス」
――剣は軽いのが一番。振り回しやすいのが一番だよ。ミカちゃん。
「性格が、じゃ。紹介する、ラウルスの子孫のラウルじゃ」
――おう、よろしくな! ここに安置されてずっと退屈で退屈で。でも、ミカちゃんが時々話に来てくれるからまだ良いんだけどね。で、僕の出番なの? ねぇ?
「勇者の剣にしては、重厚さがないですね」
――酷いなー、ラウルちゃん。これでも、知ってる限り世界一の剣だよー
「分かった、分かった。今日は見せるだけじゃ。使うとは言ってないぞ」
魔王はたしなめた。力は強いが、知性が高いとはいえなくて、まるでペットの犬みたいな感じでじゃれついた喋り方をする剣なのである。
「まあ、勇者様も独りぼっちで行動していたわけでないようなので、寂しくはなかったかもしれませんね」
騎士ラウルは取りなすように言った。
「よほど愛着があったのだろうな。帰国したら取り上げられると予想して、妾に預けていきおったわ」
――(愛の証として)剣を捧げたのだよ。
「馬鹿! みだりに言う物ではないわ!」
魔王は真っ赤になって、元あった場所にしまい直した。
棺が閉じられる前に中から剣が
――ラウルちゃん、ミカちゃんまたねー
と言う声が聞こえた。
「ラウルスには、別の魔剣を渡しておる。訝られないように、それなりの魔法が掛かった剣を」
「ああ、王国にある伝説の剣はそれなんですね」
ラウルは納得した。子孫でも見たことのない剣。それが、格落ちする剣だったとは。王も騙されたもんだなと。
「こんな魔剣に頼らずとも実力で勝つことはできる。そして、それは剣術ではなく、大いなる心の使い方で得られるものじゃ。それをこれから伝授しよう。まあ妾でも3ヶ月掛かったがの」
自分なら何年かかるんだろうとラウルは思った。ちょっと話しただけでも魔王は異才の持ち主だということがわかる。外見が似ているだけの自分にそれは取得できるのだろうか?
そして、荒れてた魔界の魔王ミカ以下をこれだけ変えてしまった勇者ラウルスの技とはどういう物なのか期待と不安が入り交じった感覚に襲われるのであった。