11・魔法付与
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「ラウル、魔法は使えるかの?」
「いえ、サッパリ。剣術バカでございます」
「勇者は全属性マスターしておったぞ」
魔王は懐かしそうに思い出した。あれぞ天分という奴だったかと。雑魚を蹴散らし、戦意を失わせる術を心得ていた。でなければ魔王城奥深くまで一人で来ることなどできようはずもない。
「魔術は子供の頃から練習しないとなかなか取得できないが、まあ使えるようにしてやろう。マーリン、来い!」
魔王は大音声で魔道士マーリンを呼んだ。
しばらくして、人型の覆面男が練習場に現れた。
「紹介する、魔界随一の魔道士マーリンだ。彼は騎士、ラウル」
「お初にお目にかかります、マーリン殿」
「いえいえ、こちらこそ。噂に違わず勇者そっくりですなぁ」
「ラウルが魔法を使えるようにしたいが、良い案はないか。今は全く使えないそうだ」
「そうですか、人族でその年齢だとちょっと厳しいですね」
魔法には詠唱と契約と形がある。一つ一つできるようになるには手間が掛かる。マーリンは別の方法を思い付いた。
「戦闘特化なら、魔法付与した品を装備されて、戦いの時に随時発動するようにすればいいのでは」
「そうじゃな。妾も同じ事を考えていた。宝物殿を漁れば良いのがみつかるだろう。二人ともこれから宝物殿に行かぬか?」
二人は同意した。ラウルはどんな品があるのかワクワクしていた。
「ミカ、勇者の剣も見せて頂きたいが可能でしょうか?」
「うむ、あれも魔法が掛かっておったな」
宝物殿に向かう途中でそういうことを話しながら魔王城の地下倉庫へ向かう。
衛兵が頭を下げ扉を開いた先には箱が並んでる倉庫だった。ラウルのイメージとしては乱雑に金貨や宝石や魔導具が転がっているというものだったが、奇麗に整理整頓されている。王国の宝物庫には入ったことないので比べられないが、管理人はキッチリした性格のようだ。
「奇麗ですね。ちょっと意外でした」
「テルゴウスが片づける前はゴチャゴチャだったが、今は奇麗になっている」
マーリンは照明球を大きくすると、箱の中からマントを取りだした。
「透明になるマントじゃ。これなどどうかの。熱源探知ゴーグルで一組じゃ」
「それはつまり、姿を消すことができて、こっちは姿を消した相手を見ることができると」
「ラウル、その通りじゃな」
魔王は呵々大笑した。
「熱源遮断マントとかだったら意味がないが、そんなもの熱が籠もって熱死してしまうわ」
「氷魔法の腕輪もあるぞ。氷片を遠くに飛ばすことができる。空中にいる敵に有効じゃ」
マーリンは、変色した銅みたいな素材の腕輪を掲げた。
「ほかにも沢山有るわ……」
ラウルはここで、ふと気づいた。
「それだけの物がありながら、しかも、強靱な魔王軍が勇者一人に負けてしまったんですよね、不思議です」
「しかも、誰も傷つけずにな……勇者の勇者たる所以じゃ」
魔王ミカは遠い目をしながら、振り返った。
そこには「勇者の剣」が鎮座していた。