10・ラウルの力量
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側女のネミラは最近思う。魔王さまは最近幸せそうだなと。ネミラが付くようになって数百年、魔王さまは退屈そうで、時には機嫌が悪かったが、周囲に当たることはなかったが、あんまり幸せそうには見えなかった。
ときどき、誰かのことを思い出してため息を吐いて執務に戻る。
そんな生活を続けていた。
ところが、ここ数ヶ月で見違えるように生き生きしている。
やはり、あの騎士が原因? そう思うのだった。
魔王ミカと騎士ラウルの最初の手合わせは一瞬で終わった。
木刀を構えるとお互いの力量が分かる。
――ふむ、ラウルはそこそこやるようじゃ。でも、これでは妾に勝てん。
魔王は思った。
――魔王さまには勝てそうもない。これを圧倒したというご先祖さまは凄かったんだな。
騎士ラウルは思った。
「まだまだじゃな」
「そうですね。どれだけお強いかと思ったら想像以上でした」
ちょっと打ち合ってみて、わかる。
「太刀筋は悪くない。精進すれば勇者並になれる」
「可能でしょうか? 魔王さま」
「ミカで良いわ。剣技は追いつけるし、あの切らずして勝つ技も伝授してやろう」
そして、勇者の再来と呼ばれるがいいわ、ラウルよ。
「ありがとうございます。なぜ、そこまで私にしてくれるのですか?」
「それはその……似ているからじゃ」
魔王は小さな声で言った。
「は?」
「いや、見込んだからじゃ、そなたを」
それに間違いはない。言い換えただけ。
「さて、剣に弱い部分がある。それを直してから技を教えよう」
魔王は言った。当分、一緒に気晴らしに付き合って貰う。あの勇者に似た男に。
「それにしても、千年の間、ミカ殿は鍛錬しておられたのか。この強さは衰えたとは思えないが」
「ミカと呼び捨てで良いと言ってるじゃろ。ラウルよ。身体を動かさないと鈍ってしまうからのう。ときどき修練の時間を取って鍛えておるわ」
「なるほど、道理でスタイルも素晴らしいです」
「おべんちゃらを言うヒマがあったら見事打ち込んでみよ」
魔王は、打ち込んできた騎士の剣をひらりと避けると、木刀を横から喉笛に突き上げてピタリと止めた。
「お見事でございます」
横に居た剣術師範のクメラが賞賛する。今後はこの3者で剣術の稽古をすることになる。