第玖話 調査結果
「ねぇ、姉貴。早く起きて!早く!起きないとアイス食べちゃうよ。カチカチの奴」
「ふぇ...アイス。ん?アイ...きゃあああああ!!何で私の部屋に勝手に入って来てるんですか!」
「夜這い?」
「冗談でもやめて下さい。それに今は朝です。用がないなら直ぐに出て行って下さい」
「なら、用事があれば出て行かなくて良いって事だよね?」
朝日が眩しいのか?それとも圭太の行動に疑いを持っているのか?望海は訝しむ表情をした。
しかし、1通の手紙を受け取ると彼の言葉が嘘ではない事が分かる。
「Dr.黄泉が僕達を呼んでる。それぞれ別件だけど情報共有しておくに越した事はないし」
「分かりました。では、直ぐに向かいましょう。というか、圭太。貴方はいつDr.黄泉と知り合ったのですか?他の運び屋が彼を探すのに苦労していたのに何故貴方はすんなりと彼に連絡出来たんですか?」
「説明書」
「...へ?」
「ほら、姉貴の部屋の机に分厚い説明書があったから読んだ事があるんだ。その最後の方に彼の連絡先と住所が書いてあるよ」
「えっ、嘘」
すぐさま望海は机から道具の説明書を取り出し確認する。
確かにDr.黄泉の情報が書いてあった。
「...というか、圭太。貴方、常習犯だったんですね!幻滅しました。私の部屋に勝手に入るなんて」
「家族として姉貴が夜遅くまで帰らないのを心配していただけだよ。何も話してくれないから手がかりが欲しいのはそんなに可笑しな事?」
「...くっ。分かりました、今度からは出来るだけ早く帰るようにします。やっぱり圭太、貴方には色々と敵わないですね。自慢の二枚舌で言いくるめられてしまいました。異国に行って更に磨きがかかったんじゃないですか?」
望海の思わぬ返答に圭太は豆鉄砲を食らった様な顔をする。
「何?僕が虚言者とでも言いたいの?」
「物は言いようという事です」
支度を済ませ、住所を頼りに黄泉の所へ向かう。
「Dr.黄泉、ごめんください。圭太、本当に彼は此処にいるんですか?」
「住所を何度も確認したし此処で間違いないよ」
2人が赴いた先にあったのは小さな古民家だった。
こんな所に研究所があると考えると望海は首を傾げる他なかった。
引き戸を開け、何歩か踏み込むと更にその奥に障子が見える。
恐る恐る近づいてみると火花が散り、何かの溶接作業をしているのがわかる。
「あぁ、思ったより早かったね。中に入ってもらって構わないよ。散らかってるけど」
中に入ると発明品の試作が其処彼処に転がっていた。
圭太はそれを興味深そうにそれをみている。
望海は近くのソファに腰掛けていた。
「じゃあ、まずは圭太君の方から。君の望む通りコードを使える様にしたよ。「800」向こうで使用していた物と同じで良いかな?」
「うん、良いよ。でも、僕は印を異国の地において来てしまったし向こうの仲間がつかってるから皆の様に運び屋の任務に就く事はしないけどね。それより僕はもっと大切な事をしなければいけないんだ」
その圭太の文言に望海は複数の疑問が思い浮かんだ。
それを一つ一つ丁寧に質問していく。
「圭太、私からの質問に答えてください。貴方は異国の地に赴いて歌舞伎の舞台をしていたはずです。なのに何故、運び屋の仕事をしているのですか?いいえ、それだけではありません。貴方の目的は何ですか?以前の貴方は運び屋の仕事に関心がなかった。何がきっかけで私達に絡もうとするのです」
「リチャードとフランシス」
「…どなたですか?」
「僕の舞台を見に来てくれた人達だよ。こっちの文化に興味を持ってくれて、祖父と一緒に来てくれたんだ。運び屋の事も彼らが教えてくれたんだ「君にも才能があるって」ね。舞台の合間を縫って仕事を手伝ってたんだ。そしたら現地の人より行動範囲が広がってしまって仕事を奪ってしまったんだよね。ちょっと、悪い事しちゃったかな?」
「悪い事と言いますか…なるほど、本場の方にそう言われたのですね。で、それ以上の働きをしてしまったと」
「でも、皆んな喜んでくれたからよかったのかな?それで思い出したんだ。姉貴も同じ事をやってたんだなって。それを現地の人に言ったら「是非、連れてきてくれ!」って言ってたよ。だから、一緒にどうかなって?」
「いやいや!話を勝手に進めないでください!何故、私が異国の地に赴く事になっているんですか!?」
「えっ、もう担当場所も決まってるのに?」
困惑する望海に対してDr.黄泉はゲラゲラと笑っていた。
そんなのもお構い無しに圭太は話を進めていく。
「僕の目的はただ一つ、この比良坂町を平穏な状態にする事。でも、その平穏を取り戻す為には数々の壁を突破しないといけない。それは姉貴にも分かるよね」
「えぇ、だから此処に来たんです。Dr.黄泉検査結果をお願いします」
その言葉に合わせ、彼は側にあった書類を読み上げる。
「本当に面白いサンプルだったよ。まずこれは、「人魚の血液」である事に相違はないかな?」
「はい、依頼主が採取した物であると考えられます。正直な話、ご本人から最後まで話を聞く事は出来ませんでした。ですが、第肆区の繁華街で発見した人魚から採取した物で間違いありません」
「僕はね、長年疑問に思っていたんだ。人魚は昔からずっと比良坂町に住み着いているだろう?彼女達を隔離する壁が築かれたのは今から150年前、思ったより最近なんだ。でも、彼女達の美しさも命も永遠じゃない。何処かで世代交代をしなければいけない。なのにだ、生物として欠損箇所がある」
「子孫を残す為の番がいないって事?」
「ご名答。無性生殖ならまだしも、人魚は女性だ。どこまで行っても女性なんだ。性がある以上、番を探さなければいけない。君達に質問だ、比良坂町の男性は何処にいる?いや、違うな。“何種類”いる?」
その言葉に望海は喉を詰まらせ、この先を言うのが怖くなってしまった。
思わず、圭太の腕に縋り付く。
彼を守る為なのか、それとも自分を守って欲しいのか?それは本人にも分からなかった。
「大丈夫だよ姉貴。僕は自分の身は自分で守れるから。答えは2種類、青い血を持つ男性と赤い血を持つ男性だ。混血児も含めたらもっと多くなるかもしれないけどね」
「この血液から微小ではあるものの青い血の成分が検出された。父親のデータがこの中に残っているという訳だ」
「人魚もまた、人魚の母親と人間の父親の混血児という事ですか?」
「そういう事だろうね。人魚は人に恋をし、相手との間に子供を作り、その相手を自分と子供の養分にする。そこで問題だ、これを繰り返していったら最終的にどうなると思う?」
「もしかして…」
望海はその答えが今の比良坂町にあると確信した。