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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー  作者: きつねうどん
第1章 麗しの魔物
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第漆話 雨音

「東圭太さん、長旅ご苦労様でした。ここからは私が比良坂町まで送迎致します。さぁ、お荷物をこちらへ」


「...君、誰だっけ?あっ、そうだ僕を散々ストーカーしていた人だ」


「ストーカーではありません!軍から派遣された護衛です!名は音無(おとなし)、階級は伍長です。以後お見知りおきを」


「いや、別に僕は今後君と会う事は無いと思うから無駄な情報を喋らないでくれる。舞台と家族の事以外、正直言って興味ないんだ」


モラルのカケラもなくバッサリと圭太は切り捨て淡々と車のトランクに大きな荷物を乗せ、勝手に後部座席に座り込んでしまった。

それに反して音無は呆然としていると圭太は窓を開け、彼に声をかける。


「早くして。雨は嫌いなんだ。雲行きが悪くなる前に車を出して」


「(ムカつく餓鬼だなコイツ!!いい年してクマのぬいぐるみ抱えてんじゃねーよ!丁寧にラッピングしてんじゃねーよ!)」


異国の地に居る時から、音無は圭太に寄り添い文化を教え、言語通訳をしてきた。

しかし、圭太は望海とは違い常識もなければ人を思いやると言った事をしない。というより考えた事もないのだろう。


望海と同じ黒髪に今日は緑のスーツと黄色のネクタイをしているようだ。

お芝居の稽古をする時は、白に赤い袴姿である事が多いのだから洋服姿は珍しい。異国に行き、彼方の文化の影響を受けたのだろうか?


音無はこれでようやく任務に開放されると歓喜の声を上げていた。


「比良坂町の第弐区でよろしいですね。関所の前に下ろしますよ」


「うん、それでいいよ。あのさ、君にとって理想の女性ってどんな人?」


特に仲良くもない人に、突然プライベート的な質問をされ音無は困惑どころか混乱した。


「私達って、そんなに仲良かった記憶がないんですが」


「僕もないよ。役作りの一貫で聞いてるだけ。女性を演じるにあたって自分だけの意見じゃ表現を広げられないんだ」


「あぁ、成る程。歌舞伎の女方として意見が欲しいという事でしたか。別に私の意見を参考にしなくとも身近な女性を手本にすれば良いと思いますがね。母親、姉、妹、親族じゃなくとも学校の同級生とか?探せば幾らでも居ると思いますよ?」


その言葉に圭太は雨に濡れる窓を見ていた。


「稽古を始めた時はそうしてたよ。姉が自分の理想で、姉の花道や琴の稽古を見るのが大好きで、自分も頑張る勇気を貰ってた。でも、本当は逆で自分の稽古をいつも母親が見てるから親の気を引きたくて僕以上に努力しようとしてた。だから...」


そのあと、口を噤んでしまった圭太を見て音無は安易に聞こうとはしなかった。

家族間に亀裂が入っている事を彼は連想してしまったからだ。

圭太は言う決心がついたのか、座席に座り直し話を続けた。


「姉が壊れてしまったんだ。人柄が変わったように花道も琴も舞踊も全部やめてしまって家族が寝静まった頃に帰る様になった。「元々、習い事も好きでやっていた訳じゃない」姉の本心を知ったのはそれが最初で最後だった。僕が姉を不幸にしたんだ」


「...別に貴方のせいじゃないでしょう?最終的にその判断を下したのはお姉さんなんだから。何か可笑しいなと思ったら、ソレお詫びの品って事ですか?未練タラタラじゃないですか。年頃の女性にあげるものじゃないでしょ!?」


ドアミラー越しに圭太の持っているぬいぐるみを見た後、音無は溜め息をついた。


「圭太さん、もうすぐ関所に着きますよ。お姉さんと仲直り出来るといいですね」


「うん、ありがとう。...えっと、音無さん?」


小一時間前に自己紹介したにも関わらず名前が曖昧なのを見るに本当に人に興味がないんだなと音無は痛感した。




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