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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー  作者: きつねうどん
第5章 旧知の友
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第肆拾仇話 再会 ▲

協会の中に侵入した朱鷺田達は誰もいない一室に身を潜めていた。


「不幸中の幸いだったな、建物の中に人はいないみたいだ。それ以上に外にガチガチに警備が撒かれるな」


部屋のカーテンの隙間から朱鷺田は少しだけ顔を出し、軍人達が目の前を通るのを見ると反射的にそれを閉じた。


「認識の違いでしょうね。一般の方だったら出入り口に向かうと思いますけど運び屋は会議室近くにそれぞれ印を持っているのでそんな事をする必要がないんです」


「谷川さんは面倒臭いからそもそも会議に出ないけどね。みどり君、谷川さんの腹時計がなってるよ。ちょっとお昼休憩しようよ。みどり君の作ったおにぎりと味噌汁が食べたいな」


「谷川!!ちょっとは緊張感を持て!!全く」


「まぁまぁ、腹が減っては戦はできぬと言いますから。谷川さんの言う事も案外的を得ているかもしれません」


「いいんだぞ、浅間。無理してフォローを入れなくても」


そのあと、浅間は移動したいと言うので2人も一緒についていく事にした。

しかし、移動した場所は見晴らしの良い屋上庭園だった。


「谷川さん、これから軍人達の動きを止めるので自分の身を守れる物はありますか?巻き添いを食う可能性があるので」


「おー、まーちゃん。大胆!みどり君はそのままでいいの?」


「朱鷺田さんは町長の息子さんなので、無効化出来るんです。見た感じ数だけで指揮官もいないように思えます。今がチャンスかと」


「分かった。発動条件があるんだな?こっちにも防衛手段はある。後は浅間に任せよう」


【コード:007 承認完了 毘沙門天を起動します】


守り神の加護により朱鷺田と谷川は幕に包まれる。

それを見た浅間は確認した後、行動を開始した。


【コード:007 承認完了 牛蒡種(ごぼうだね)を起動します】


次の瞬間、浅間の目の前に150の瞳が現れる。

それは人間に限らず、さまざまな動物の瞳が軍人達を見下ろしていた。


「目を合わせない方が良いですよ。発狂か頭痛で苦しむだけですから」


「まーちゃん、恐ろしい子!」


「本当に仲間でよかったな。敵に回したら厄介なのは昔から知ってるけども」


しかし、浅間の警告も虚しく軍人達は空を見上げて目を合わせてしまう。そのあとの結末は容易だろう。

激しい頭痛に悩まされて動けなくなる者や、気が触れたのか味方に銃を乱発射する者も出てきてしまった。


これが浅間の戦法、敵を混乱させその内に追い討ちをかける。


「大軍で押し寄せるからこそ、敵は油断し1人1人の能力を全力で発揮出来ずに終わるんです。私はそう言う方達が大好きです。勝てるって思いましたよね?こんな貧弱な女に負けるなんて思いませんよね?1人で何が出来るんだって思いますよね?そんな事、私が1番分かりきっているんですよ!」


【コード:007 承認完了 六文銭を起動します】


部隊の混乱に乗じて四方八方から槍や鉄砲が飛んでくる。

その様子を浅間は冷静に見つめていた。


「やっぱり、火器は相性悪いですね。案外、刀や槍のようなシンプルな物の方が効くのかもしれません。鉄砲ではなく、弓に変更しておきましょう。朱鷺田さん、谷川さん。ご協力ありがとうございました。これでしばらくは時間稼ぎ出来るかと、軍を足止め出来ればこっちのものですので」


そのあと谷川は浅間に対し、拍手を送った。


「まーちゃん、凄いカッコよかったよ!谷川さん、安心してお腹空いて来ちゃった。みどり君、家に帰ってご飯を食べて来よう」


「谷川、またそんな事言って...」


そんな時だった、下の階段から足音が聞こえる。

奇襲だと思ったのか谷川は素早く2人の前に出た。


【コード:007 承認完了 鎌鼬(かまいたち)を起動します】


突然現れた人影に鎌鼬が襲うが、相手は涼しい顔どころか(にこや)かな笑顔で対応した。


【コード:200 承認完了 毘沙門天を起動します】


「鞠理、ちょっとは体動くようになったか?酷い事するな、仲間に向かって」


「「旭!?」」


「旭さん、どうしてここに?」


「よっ、新入り。さっき下から見てたぞ、腕を上げたな。俺も毘沙門天がなきゃ巻き込まれてた」


「もしかして、協会の近くにいたんですか!?どうして?」


「散歩?いや、今は昼寝か。ここは見晴らしも良いし、気に入ってる場所だったんだよな。今は、変な奴らが近くにいるけど。それも悪くないな」


そう言いながらこの状況で旭は昼寝を開始してしまった。

本当にマイペースというか、柔軟な思考、器がデカい、鈍感と彼の性格を一言で語るには難しいぐらい様々な単語が思い浮かぶ。

ニット帽で隠れてしまっているが、明るい茶髪に晴天のような透き通った瞳。

冬空に合わせた、白と緑のダウンジャケットを着ている。

その姿に朱鷺田は懐かしさを覚えていた。自分達が運び屋を始めた時も彼は同じ色のコートを着ていたのを。


「珍しく旭と気が合うね。谷川さんも昼寝しよっと!」


「...朱鷺田さん。お2人共どうします?寝ちゃいましたけど」


「放っておきたいのは山々なんだが、状況が状況だからな。おい、起きろ。谷川、さっきおにぎりと味噌汁が食べたいって言ってたよな?卵焼きも付けてやる。これでどうだ」


「...はっ、谷川さん。みどり君の料理大好きなんだよね、仕方ない。起きてあげるよ」


「...トッキー、俺の分は?」


「今、起きると約束したら旭の分も作ってやる」


「仕方ない、起きるか。トッキーの飯に敵う物はないからな」


「普段から、こう言うあやし方をされてるんですか?朱鷺田さん」


「でっかい子供が2人いる状態だよ。でも、なぜか憎めないんだよな。何年一緒にいても飽きる事はない、ずっとこのままでいいと思えるぐらいにはな」


「ふふっ、先輩達が羨ましいなと思ったのはこれが初めてかもしれません」




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