第肆拾陸話 籠城戦 ◉
「パパ、ゆかりおにいちゃんがれおのことよんでる。いかなきゃ。れお、いってくるね」
時刻は戻り拠点である洛陽にて、零央は朱鷺田から連絡を受けた所から始まる。
「やっぱり、壱区も人手が足りないか。聞けば誘拐事件も絡んでるらしいからな、皆混乱してるんだろう。こう言う時、精神的に強い旭やしっかり者の青葉がいれば状況は違ったんだがな。仕方ない、零央。皆んなの力になってやってくれ、気をつけてな」
「うん!」
零央はすぐさま水行川へと向かった。
「さて、玉ちゃん。もう、“あれ”しかないんじゃない?圭太君も翼と一緒で雪を用意出来るんだよね?まず、行動範囲の広い私達で参区と肆区の皆と連携を取れるようにしないと。節子お嬢様達を探すにしても私達少数じゃ無理があるよ」
「翼って言う人とは違うかもしれないけど、大方一緒だよ。ティムから教わったんだ。こう言う時って何が役に立つのか本当に分からないよね」
「ならまずは希輝さん達と合流しなくては。“無理矢理にでも”」
「希輝、窓から顔を出すな。敵に気づかれるぞ」
「ねぇ、剣城。今、一瞬人影みたいなのが見えたんだけど気のせいかな?...いや、気のせいじゃないな」
そのあと、白鷹が何か飛んできた物に気づいたのか2人の前に出る。
【コード:007 承認完了 クロヨンを起動します】
目の前に勢いよく流れる大滝が現れる、白鷹はそれに吸収された苦無を掴み取った。
「及第点と言った所だな」
そんな声を耳にした3人は自身に胸騒ぎがするのを感じとった。
しかし、その不安を吹き飛ばすような出来事も直ぐに起こった事も事実だった。
「おい、運び屋を見つけたぞ!追え!」
希輝達はその言葉に自分の居場所がバレたのかと思ったが、逃げてもいないのに「追え」とは言われないだろう。
「もしかして、望海達が近くに来てる?まさか、正面突破してきたとか言わないよね。いや、ベテラン勢がそんな事」
「いた!皆さん、説明は後でさせてください。まずは児玉さんの所に集まって!」
「...希輝、そんな事あったね」
「あぁ!!アタシの中の3人はもっとスマートにこの窮地を解決してくれると思ったのに、やっぱり脳筋だったか!!でも、そんな所も好き!!」
望海の指示の元ついていくと、児玉を中心に光莉と圭太がいた。
「望海、今から何をするつもり?」
「児玉さんはこの比良坂町で1番念力を持つ運び屋です。今から、彼の最高傑作をお見せします」
「よし、全員揃ったな。これを起動させている間、俺は城から出られない。無理矢理にでも城から弾き出されたら、それに連動して消滅する。意地でも俺を守ってくれよ」
「城!?でも、比良坂町に城なんかないですよ!?」
希輝が辺りを見渡しそれっぽい物を探すが当たり前のように見つからない。その言葉に児玉はニヤリと笑みを浮かべた。
「それを今から作るんだよ!」
【コード:700 承認完了 一夜城を起動します】
一瞬にして石垣、堀、城門が出来上がり今度は城の内部を形成していく。天辺の天守閣まで瞬く間に出来上がってしまった。
「児玉さん、練習した甲斐がありましたね。初めてではないですか?こんなに大規模な城を作ったのは?」
「本番で無茶するような事はしたくなかったんだがな。これなら、ある程度防衛は可能だろう。お前たち3人は今のうちに浅間の所に戻れ」
しかし、そんな言葉を無視して希輝は興奮した様子で金箔が張り巡らされた茶室を見ていた。
「児玉さん、こんなに映える物を見たら絶対に帰る事なんて出来ません!それにさっき、敵の奇襲を受けたんです。白鷹、さっきのやつ望海に渡して」
白鷹は先程手に取った苦無を望海に渡す。
その様子を見た圭太は何かに気づいたようだった。
「もしかして、百地が近くにいるのかもしれない。姉貴、僕はすぐさま天守閣に行って偵察と雪を降らせてくる。出来るだけの事はしないと」
「えぇ、彼はかなりの手慣れのようでした。正直、私達が束になって対応したとしても優勢に事を運べるかどうか分かりません。お願いします。どうか、共に戦ってはもらえませんか?」
「勿論!」
その一方で洛陽に残された黄泉は外からその巨城を見上げていた。
「本当に素晴らしいね。児玉だからこそ、成せる技だ。しかし、開発した僕はそれ以上に素晴らしい。僕も彼らの元に向かった方がいいだろう。合流しなければ」
そんな時だった、黄泉の無線に連絡が入る。
こんな緊急事態に何のようだと連絡先を確認すると、彼にとって今は見覚えのない数字が表示されている。
「200」の数字、これが何を意味するか黄泉にはすぐに分かった。
「何だい?珍しいね、君から話しかけてくれるなんて」
「黄泉先生、アンタの発明品。突然使えなくなったんだがどうなっているんだ?」
「君ね、僕の発明品にケチをつけないでくれるかい?機械にだって限界があるんだ。ましてや君は一線から退いた身だ。そう言うのは雑に扱わず、記念品のように保管しておくべきだと思うよ。青葉君を見習ってね」
「そうか!そうか!あはははははは!!それは済まない事をした黄泉先生!!ところでトッキーと鞠理が家に寄ってもいないんだ。先生知らないか?」
「無知なのは君の方だよ。折角だし、協会の方まで散歩してきたらどうだい?君の会いたい人に会えるんじゃないかな?旭君」
「確かに最近体が鈍って来てると思ってたんだ。ありがとう、黄泉先生。では、其方に向かうとするか」
「付け足しておくが、僕はもう壱区は殆ど弟子に任せているんだ。助けが必要なら其方に...切れた。本当に旭君はマイペースだね、人を巻き込むのが上手いというか。幼馴染とは言え町長の息子を運び屋に誘うぐらいだ。図太い神経がなければ不可能だっただろうね」
黄泉は呆れながらも笑みを浮かべていた。
一言:旭が「200」の番号を使用しているのは2022年に東北・上越新幹線共に40周年を迎え、その記念としてE2系に200系新幹線の塗装を施した「なつかしのあさひ号」「なつかしのあおば号」が団体やツアー客に向けて運営された事に由来します。
作者も同じ物を回送列車という形で記憶が曖昧で申し訳ないんですが、仙台駅か盛岡駅付近で見ました。




