第参拾捌話 子煩悩
「零央、父さん任務に行ってくるからここで待てるか?」
「うん!れお、あそんでるね!」
場所は壱区の協会、いつもなら零央は喫茶店にいるのだが今回、望海達も他に出払っており彼を見ていられる人がいなかったのだ。
そのため、児玉は協会へ赴き簡易的な遊び場に連れていく事にした。
「すぐ戻るから!」
そう言い残して、児玉はその場を去っていってしまった。
零央はいつも通り遊んでいたものの、次第に飽きてきてしまう。
数分後には、部屋を出て廊下に出てしまった。
「君、こんな所でどうした?お父さんかお母さんは?」
そんなおり、1人の男性に話しかけられた。
零央は面識がないため、彼の名前が分からなかった。
しかし、不思議と零央は彼に懐いたのだ。
「パパ、おしごとにいっちゃたんだ。れお、ここでまってるの」
「そっか、偉いな。お兄さん、朱鷺田縁って言うんだ。よかったら、一緒に遊ぶか?ひらがなとか、文字の練習でも良いぞ」
「れお、じぶんのなまえかけるよ!おにいさんにみせてあげる!」
そのあと、2人は楽しそうに談笑していた。
朱鷺田は面倒見が良く、色々な事を零央に話してくれた。
そんな中で零央はある質問をした。
「おにいさん、れおね。かっこいいかんじがしりたいんだ!おしえて!」
「カッコいいか。難しいな、四字熟語とか?子供にも分かりやすいものがいいよな」
そう朱鷺田は呟き、考え事をした後、近くにあった画用紙にクレヨンで何かを書き始めた。
「風林火山」それが朱鷺田の書いた文字だった。
「なんてよむの?」
「ふうりんかざん、戦う為の心得を表した四字熟語だ。風のように早く、林のように動かない時は静かに潜み、火のように果敢に猛追し、山のようにどっしりと構え守る。一言で言うと臨機応変に対応しろって事だけどな」
その言葉に零央は目を輝かせ、「ふうりんかざん!」と何度も呟く。
「カッコいいね!」
「喜んでくれたなら何より」
そのあと、朱鷺田は零央に何か言おうとしてやめてしまった。
「おにいさんどうしたの?」
「...いや、ちょっと君に聞きたい事があるんだ。例えばだけど、君の大切な友達が突然、目の前からいなくなっちゃったらどう思う?」
「れお、かなしいきもちになる。ないちゃうかも。おにいさんもないちゃうの?」
「その時は泣けなかった。でも、後から喪失感。もういないんだなって気持ちになって悲しくなった。昔からずっと一緒にいたのに、今までも一緒にいられると思ったのに。それが出来なかった」
零央は朱鷺田の言葉を聞きながら、自分なりの答えを出した。
「おにいさんはおとなになるのがこわい?」
「えっ!?いや、なると言うか。今も大人なんだけどな、君にはそう見えなかった?」
「えっとね、そうじゃないんだ。ごめんなさい。れお、いいたいことうまくいえないんだ」
零央は感覚的に何か伝えたい事があるようだが、まだ子供な為言語化出来ないのだろう。
朱鷺田は今の言葉を頼りに彼の伝えたい気持ちを自分の中から探し出す。
「もしかして、子供の頃の方が良い。過去に戻りたいって俺が思ってるって事?...旭のいない今を俺は無かった事にしようとしているのか」
「れおはね、はやくおとなになりたいな。パパといっしょにおさけをのむの!」
「ははっ、結局ない物強請りだよな。子供は大人になりたがるし、大人は子供になりたがる。そうだな、足踏みするのはもうやめだ。先の未来で旭に会える事を考える方がずっと良い」
「あれ、トッキー。こんな所で何してるの?...はっ、まさか子供好きだからって誘拐してきたとかじゃ」
「ねーよ!」
「じゃあ、その子養子にでもするの?トッキー、女性が苦手だからって段階飛ばし過ぎだって」
「おい、谷川!!もう、それ以上言うな!お前が言うと収集がつかないんだよ!!」
2人のやりとりに零央は怖がる所か笑っていた。
「おにいさんとおねえさん、おもしろいね」
「そうでしょ?そうだ、君にいい事教えてあげる。谷川さんは、普段体たらくなダメ人間として過ごしているけど。冬になると本気出すから注目しててね。それ以外は冬眠してるけど」
「いや、それ逆冬眠だろ。君は昼寝を沢山して健やかに育つけど、谷川お前は成長どころか停滞、右肩下がりまっしぐらだぞ」
「いいじゃん、平坦なコースとか初心者でもビックリだよ。ちょっと傾斜がある方が歯応えがあるってものでしょ」
「いや、誰もスキーの話なんかしてねぇよ!!いつから話が変わったんだよ!!」
2人の会話を聞きながら零央はずっと笑っていた。
こんなに大笑いしたのは生まれて初めてかもしれない。
「零央、ここにいたのか」
「パパ!」
「なんだ、児玉さんの倅だったか。彼、とても良い子で待ってましたよ」
「谷川さんも良い子だけどね!」
「お前はある意味、問題児の模範解答だよ」
2人の会話を聞いて児玉は零央の事を面倒見てくれたのだと思い、お礼を言った。
「零央の事見ててくれたのかありがとな。にしても珍しいな2人揃って協会に来るなんて、普段は余り顔出さないだろ。俺が見てないって可能性もあるけどな」
その言葉に朱鷺田は真剣な顔つきでこう言った。
「このご時世だし、周囲と連携を取らないといけないんでね。でも今日はいい収穫があった。零央、君に会えてよかったよ」
「うん!ありがとう、おにいさん、おねえさん!また、れおと遊んでくれる?」
「勿論」
朱鷺田がそう返事すると零央は嬉しそうにこう言った。
「じゃあ、こんどあったられおのたからばこみせてあげるね。みたことないはなもはいってるんだ」
そのあと、朱鷺田と谷川は協会を去る事にしたが先程の言葉に疑問を持っていた。
「見た事ない花って何だろうな?珍しい物には間違いないんだろうけど」
「子供からしたら何でも珍しいから色々宝箱に入れたいんだよ。四つ葉のクローバーとかさ。3人で良く探したじゃん。そう言う奴じゃない?」
「確かにそうだな、今度機会があったら見せてもらおう」
一言:谷川がやる気のないキャラ付けになってしまったのは、作者のタイミングにもよるのですが東京駅の新幹線の電光掲示板に中々「たにがわ」の名前を見る事が出来なかった事に由来します。
北陸方面の「つるぎ」やレアだと言われる「はやて」は別として、大きな電光掲示板を見れば1、2時間毎の出発時刻が出るので大体の名前は揃ってるんですよね。
ダイヤ的に「たにがわ」は朝と夜に集中しているので作者が乗車する時間帯はずっと「とき」ばかりが走っていて「たにがわっていつ走ってるの?もしかしてサボってるの?」と何故か思ってました。
なので稀に「たにがわ」の名前を見ると「おっ、ちゃんと仕事してる!?」と変な先入観を抱いてました。
しっかり者の「とき」とやる気のない「たにがわ」それはそれで正反対で面白いかなと思って朱鷺田と谷川も同じようにしています。




