第参拾漆話 宿敵
一言:皆さんは好きなご当地土産はありますか?
作者は北海道の「インカのめざめ」と宮城県の「萩の月」が好きなのですが地元のフェアやアンテナショップに行ってもピンポイントで売ってないんですよね。じゃがポックルは売ってるのにね。
これはもう、現地行って買ってこいというメッセージなんですかね。
北部を担当する運び屋の拠点に山岸と颯がいた。
この地域の運び屋は多く、大所帯なので物も多いのかと思いきやそうでもない。
男世帯だと思うのだが、逆にスッキリと整頓されており。テーブルにある菓子や飲み物が目立つ程だった。
ただ、誰も手をつけておらず同じ物が複数存在する事から誰かからの差し入れなのだろう。
壁際の棚には依頼人の帳簿などがラベリングされ、年代順に並べられている。次第に分厚くなっているのを見るに、少しずつメンバーが増えていったと言う事だろう。
ただ、一部。途中で薄くなっているのを見るにその時だけメンバーが抜けたのかもしれない。
「なっ、何で俺の依頼が少ないんだよ!山岸、今日は調子が良いんだ!仕事、この颯様に振ってくれよ!」
「じゃあ、隼が受けきれなかった奴やるか?そうじゃないだろ?颯、無理しなくていい。この前だって隼が倒れた時、代わりに頑張ってくれただろう?今はゆっくり休んどけ」
「...それはそうだけど」
隼が運び屋になる以前、颯が壱区の北部を担当し大多数の任務をこなして来た。
しかし、生来病弱だった颯にとって精神的にも肉体的にも大きな負担となり何度も倒れ、病に伏した。
北部の奥深くに行ける物はそう多くない。
颯もまた、貴重な人材だ。
そんな時、隼が現れ颯の仕事を請け負うようになった。
颯としては、救われたような、逆に侮辱されたような複雑な心境だったのだ。
「山岸さん!任務、一緒に来てもらいたいんすけど...って、俺嫌なタイミングで来ちゃいました?」
「翼か、少し話をしてから向かうから外で待っててくれ」
「了解です」
翼がその場から去ると同時に山岸は口を開いた。
「颯は隼が悪い奴だと思うか?」
「いや、そんな風に思った事は一度もない。ただ、自分との折り合いがつかないだけだ。...ごめん、山岸」
「いいんだよ。俺も児玉さん程じゃないけど、何年も運び屋やってるからそういう奴らを沢山見てきた。ここも例に漏れず、青葉が大怪我をして引退に追い込まれた。颯、時間はまだある。今はゆっくり考えればいい」
そう言いながら、山岸は胸ポケットから何か写真のような物を取り出している。
しかし、一瞬見たあとすぐに戻してしまった。
「そうだな。ありがとう、山岸。...というか、山岸。今、何歳だよ。もうおじさんじゃね?児玉のおじさんとそう変わらないって事じゃん」
そんな颯の言葉のあと、山岸から血管がピキッと割れるような音がしたのは気のせいだろうか?
「颯、お前そう言う所直した方がいいと“お兄さん”は思うんだけどな。いいんだよ、児玉さんは。自分でおじさんって言えるぐらい貫禄があって良い年の取り方してるんだから。俺はね、瀬戸際なの。分かる?お前達を束ねるリーダーだけど、全然言う事聞かないだろお前ら。好き勝手やってるだろ?敢えてやらせてるんだけどさ」
そのあとも永遠と話が続きそうだったが、山岸は翼との任務を思い出しその場から立ち去っていった。
「危なかった。このままだったら長時間説教ルートに入ってたわ。翼に感謝しないとな」
そんな事を呟いていると反対側から那須野が歩いてきて目が会う。
「おっ、颯じゃねぇか。今、帰りか?」
「そんな所かな。この崇高なる颯様は近寄り難くて、仕事がないんだと」
「そう言うなよ。そうだ、隼がお前の事探してたぞ。手伝いが欲しいって嘆いていた。時間があるなら行ってやったらどうだ?宇須岸の辺りにいるらしいぞ」
「あぁ、あそこか。...って、俺達が行ける最北端じゃねぇか。何考えてんだ?アイツ」
颯は後輩を揶揄ってやろうと思い、宇須岸の方へ移動した。
「隼、無理は禁物です。念力の量が底をつきかけています。このままいけば、倒れてしまうでしょう」
「分かってる。くそ、ここまで来たのに」
「何やってんだアイツら!?」
初嶺と隼はここから先、北部の範囲を広げる為尽力していた。
しかし、隼は運び屋になってそう年を積んでいない。
それ以上に日々の任務により疲労困憊になっている筈なのにその上で範囲を広げようとしているのだから颯からしてみれば地獄絵図としか言いようがなかった。
颯はすぐさま、隼達の元へ向かい止めるよう説得した。
「おい、やめろ!隼、そこまでしてやらなきゃいけない大事なことか!?お前が倒れてまでやらなきゃいけない事か!?」
「...颯先輩。貴方にだけは言われたくないんだけど」
そう言いながらもここに来てくれた事を隼は喜んでいるようだった。
しかし、隼は次第にふらつき始め倒れそうになる。
それを初嶺と颯は受け止め、支えた。
隼を木陰に寝かせ、颯は初嶺から今の状況を聞き出す。
「私のシュミレーションでは、隼ではあの川へ辿り着く事は不可能だと何度も言ったのですが「やってみなくちゃ分からない」と無理に行おうとしたのです。私としてもイレギュラーな事態で混乱しておりました」
「だろうな。颯様でも無理だと思うわ。...だが、そう言われるとムカクツな。隼は壱区のエースだ。それ以上に俺の分身みたいな物だ。自分の分身に限界がありますなんて言われたら嫌に決まってるだろ」
「分身、紛い物とはどう違うのですか?興味があります、私は隼から会った時、紛い物だと言われたのです」
「それはお前の事を良く知らなかったからだろう。お前にはお前の役割がある。それをコイツが受け入れらなかったってだけの話だ。案外、コイツもお前に嫉妬してたのかもな。涼しい顔して色々考えてたんだろ。昔の俺と一緒だ。今は寝てるけどな」
颯は横たわる隼を眺めていた。
こう見ると、やはり自分より幼く未熟に見える。
そんな彼がこんなに大きな物を背負い込んでいた事に颯は昔の自分を思い出し、暗い表情になった。
「なぁ、初嶺。俺だったら、行けるか?隼が予定の半分まで進めたのならもう半分は俺がやる。昔、使ってた場所分の念力もこっちに回せたら何とか届かないか?」
「確かにそれであれば可能かと思いますが、昔のように大部分を行き来出来なくなる可能性があります。貴方も念力は隼と同程度、それ以上に少ないと感じます」
「いいんだよ、それで。エースは2人もいらないだろ?きっと、こうなる運命だったんだ。たどり着いた先に何があるのかは、この颯様にも分からない。だが、絶対に無駄にはならない。さぁ、初嶺。始めよう」
その数時間後、肌寒い風が頬を撫で隼が目を覚ました。
澄み渡る空に満天の星が張り巡らされている。
「起きんのおせーんだよ。何時間寝てんだよ、赤ん坊か!?風邪引くぞ、ここは特に寒いんだからな」
「本当に颯先輩には言われたくないんですけど。...ありがとうございます。来てくれて。俺、貴方に嫌われてると思ってたから」
「...」
「ずっと、見てられなかった。貴方が頑張って、命を削って運び屋をしているのを。俺だったら、貴方の代わりが出来るってずっと思ってた。本当は曲を作る事に興味があって音楽の道に進もうと考えていたけど、それを諦めてここに来た」
「...そうか、悪かったな。隼、最後の大仕事だ。行くぞ、ついてこい」
颯に手を握られ、瞬間移動した先には隼の求めていた景色があった。
「宇須岸の夜景も最高だが、ここの夜景は格別だろ。後は印をつけるだけだ。初嶺、お前もどうだ?一緒に」
「私ですか?ですが私は皆さんの仲間では...」
初嶺の言葉に隼は首を横に振った。
薄らとながら、目に涙があるのが分かる。
「ここはきっと、1人では辿り着けない景色なんだ。初嶺、俺からもお願いする」
「分かりました。お2人の気持ち、有り難く頂戴します」
そのあと、3人はそれぞれの場所に印をつけ。本拠地に帰還した。




